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□鬼佐久
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愚か



人には大事な物を2つ同時に守る事が出来ない

例えそれが
大切な人と自分の命でも、

本当に守りたい物を
同時に守れないんだ

…ねぇ、鬼道さん?



________


俺は今、線路の上にいる
長い長い、果てしなく続く線路の上に

澄んだ青空、聞こえる呑気に過ごす人々の声

澄んだ青空もすべて白黒に見える

それが、俺を汚い目で見てきてるようでたまらなかった



なぜここに
いるかって?



――死ぬ、から


あー、世の中って怖いよな、大切な人を守るため自分が犠牲になるのだから


だけど、鬼道さんは違った
正式には俺を使っていた


さんざん人を抱き締めて、甘い言葉かけて

飽きるくらい抱いて…

こんな気持ちに
させといて

よりにもよって大嫌いな不動なんかとくっつきやがった


あぁ、鬼道さん…俺、あなたを見るたび幸せでした

いえ、愛してます

今でも、ずっとずっと
あなたを大好き


だけど、もう遅い

あなたに捨てられた俺はゴミに等しい存在だ


―――カンカン

聞こえる
聞こえるよ鬼道さん

死の音が…もうじき俺は死ぬ


目の前には白黒の電車
俺に向かって走ってくる


ふふっ…
運転手の顔がたまらないね


いいよ、悪くない


「鬼道さん……」


ふいに、俺の愛しい人の名前が出てしまう


頬に流れる一つの涙、これが俺の最後の生きざま


「…………佐久間ッッ!!!」


隣から、俺を呼ぶ声がする愛しいあの人の声だ

ふと、隣に顔を向けてみる

身体中、汗で濡れている…きっとよっぽどの事があったのかな?

最後まで貴方は世話のかかる人だ

いや、違う…これは走馬灯鬼道さんの走馬灯

でも、最後に貴方の走馬灯が見れて良かった…鬼道さん…
最後に、走馬灯でもせめて大好きな人の前では、

綺麗でいさせて


「鬼道さん、」


俺は、今までで一番、素直で優しい笑顔を鬼道さんに向けた


「愛してます」


―――ドンッ!!

目の前に広がる景色体が宙に浮く、あぁ俺は電車に飛ばされたんだ

でも、なぜか痛くない、むしろすっきりしてるんだ


「佐久間ァアアッッ!!」


走馬灯の鬼道さんが俺を呼ぶ声がする走馬灯って、
凄いんだな…


突然、背中が地面に叩きつけられる痛い、なぜか痛い…
苦しいよ、悲しいよ


ぼやける視界…遠のいていく意識、身体中に走る鋭い痛み


「佐久間っ、佐久間!!」

なにかが俺を、温かいなにかが俺を抱き締めている、

頬に、温かい涙がおちてきた

鬼道さんの顔が視界に入る

凄く辛そうな、悲しい表情で泣いている

凄いな、走馬灯って感覚や温かさまでそっくりうつしてくれる


「佐久間ッッ、死ぬなッ、目を閉じるな!!あと少しだからっ、救急車くるからっ、」


あぁ、最後までいい事があるのですね…死ぬって、こんなに良かったんだ


思い瞼が…
ゆっくり閉じていく


「鬼……道さ…………ぁぃ…してます……ょ…」


走馬灯の鬼道さんが俺の手を握っている、温かい…

温かいです、鬼道さん…


「俺も、俺も愛してる!!佐久間!!だから…っ目を開けろ!!さく…ま?…………佐久間あぁあッ!!!」

呼吸が止まる
意識が身体中からぬける最後まで、貴方の幸せな走馬灯を見せてもらいました

もう、目を開ける事はありません…


まるで、現実みたいです
大好き…ですよ



愛してます、有人




(最後に聞いたあなたの声は)(今も心に残ってる)
 

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