【暗黒の狂詩曲3】

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「タナトスを裏切った!?」

「裏切ったんじゃないさ。トンネルを爆破された際、回線が切れただけだ」

輝樹いわく、あのトンネルにコンセントがあったがその回線の一部が切れたらしい。

「そんな馬鹿な。タナトス様が」

「所詮はオリジナルには敵わないわけか」

「そんなこと発見されてみなさい。反逆行為として首輪を爆破される」

「しかし、誰の首輪も爆破されていない。だからタナトス様は監視のしようがなかった。まさかかと思うけど、ローパー貴方が解除したの」

「まさか。タナトスのデータはタナトスしか分からないのに。それよりどうする?」

「はぁあ!?共闘組んだら今度こそお前死んじまうぜ?」

「馴れ合いは嫌いだ。俺はあくまでも視察に来ただけだからな」

去ろうとする蒼太をナイフが横切る。

「せっかくだけど貴方には死んでもらうわ!」

「ふっ…威勢だけはいいな」

ふと聖の耳元で彼女達には聞こえないようにつぶやく。その内容に目を見開く。

『母さんと葵を頼んだ』

生き残りたい意志がないようだ。

「どうして!!」

「それが俺のせめての罪滅ぼしだから」

「………決着着けなくていいのかよ」

「生きていたらな」

「最期の言葉ぐらい聞いてやる」

「『ありがとう』だけ伝えてくれ。ただし、俺の意向は秘密にしろ。優しい葵のことだ。きっと帰ってきてしまうから。ほら、行け」

「いいのか。爽さんはどうする?葵の話だと溺愛されたのは、お前の方だろ」

「物心ついてない頃からここにいたから覚えてない。もし、そうだとしても会えたとしても掛ける言葉が見当たらない。俺にとっての父親はBTだからな」

「にしては淡々としてるな。感情も失うくらい過酷だったのか」

「それは機密事項だ。俺からは教えられない。ただ1つ言えること。それは輝樹についてだが」

「輝樹について何か秘密を握ってるのか」

「俺に勝てたら教えてやる。ただし、その場合データ上でしか知ることはできないが」

つまり、蒼太の死を意味するのだ。そして、彼もUSBを持っている。しかし今は蒼太の指示通り葵達のいる場所を向かうしかない。ただし、侵入禁止区域が広がる場所では慎重に行動しなければならない。理性を保つため念のためにサキュバスからもらったピアスを起動させる。痛みが走るがその分理性が戻る。

倉庫場所の裏側で葵達が待っていたのだ。どうやら聖が心配で遠くまで離れることが出来なかったのだ。

「兄さんは…?」

「盾になった」

「まさか、ラフォーレ姉妹を一人で相手してるの!?何を血迷ってるのあの子は」

聖の肩を思い切り両手で降るサキュバスに焦りが見える。彼女を取り押さえ悲痛な顔で答える。

「美月さん…あいつが遺言代わりに伝えてほしいことがあるって」

「遺言ですって!?」

「一度しか言わないからよく聞いて。あいつは葵と美月さんに『ありがとう』って……」

「やっぱり死ぬ気だった。私達を優勝させる気なのかしら」

「もちろんそのつもりだろう。いくら感情を消したとはいえ深層心理は消えない。となれば僕は用無しだな」

倉庫の中に入ろうとするサーペントを制止する葵。

「どうして!?」

「今回のルールは、優勝者がでない限りサドンデスになります。俗に言うバトロアとは違います。それに僕達の目的は、優勝することではなく、このゲームのコアを潰すことです。だから、人数を確保しなければならない」

輝樹の言葉を思いだしながら、サーペント達に伝える。

「単刀直入に言えば、闇一族サイドからのこのゲームのデータを提供してほしい。兄さんはおそらく輝樹さんの作戦を知っている」

「つまり時間稼ぎに自分を囮にしたわけか。にしてもこのゲームは一年や二年の時間じゃない数百年からやってきて、未だに壊されることがなかった。無謀すぎる」

「もし貴方の大切な人がこのゲームを参加しなければならない状況におかれたらどうしますか?」

望まぬ参加をした葵だからこそ言える。

「となると、やっぱり誰かが止めなければいけないんだよね」

「輝樹さんの託してくれた希望を無駄にはできない。だとして、もし生きて帰ることを望めば…」

葵の場合、自分以外見殺しにしなければならない。その他に3人が生きる選択肢をした場合、やはり犠牲者がでる。

「君の言いたいことは、分かった」

「それじゃあ…。俺が生きることを望めば、葵が生きて帰ることは不可能。それってずっと悩んできたことだよな?」

「うん。だからこそ…サーペントさん、お願いします」

「ちょっと待て。ギリギリまで生きた方がいい」

「通信機能が断ち切られている今、僕達はタナトスの意のままです。そして、彼女達ラフォーレ姉妹は、テストサンプルとして、この試合に放り込まれた。タナトスを殺しても彼女達のうち1人でも生き残ったらこのゲームは続く」

「ローパーが生きていても、継続されるでしょ」

「彼にその意思はないわ」

サキュバスの言葉に目を見開くサーペント。

「サキュバス!どういうことだよ」

「サーペント、口外しない約束をしてくれるなら教えてあげる」

「口外しようにも死んでしまうだろ」

「ふふふ。あのローパー、実は彼だけ人間なのよ」

「しかし、彼はタナトスに魂を売った」

「タナトスに魂を売ったなら、私達はとっくに彼に殺されていた。情は残されてるの」

「まさか!?」

「まどろっこしい説明はやめる。ここにいる葵も、ローパーも私の子供なの」

サーペントの限界まで目が見開かれる。

「蒼太は、葵を守るためにローパーにならざる得なかった。本当は礼の失われた記憶を取り戻すためにここに来ただけなのに」

息子の過酷な状況に涙ぐむサキュバス。

「みんなみんな礼のために…」

「親父のために皆、犠牲になったのか」

「そうよ。それを悟らせたくなかった。だから爽さんは礼の記憶を操作したの。責任を負わせたくなかったから」

それを礼自身に、知らせるのは酷だろう。しかし、本人が記憶を取り戻したいことは重々承知している。

「美月さん。一つ質問していいか?タナトスが死ねば、親父達は死んでしまうのか」

「…それは、私にも分からない。ただ言えることは龍としての役目を終えるだけ。龍としての印は消されるわね」

「死ぬわけじゃないのか」

「分からないのよ。タナトスのすべてを知っているのは、爽さんただ一人なんだから」

「じゃあ父さんを再び、ここに連れて行くしかないの?危篤状態に近いのに」

「でもあの人はこの世界に再びやってきた。礼の苦悩から解放するために」

しかし、タナトスを殺してしまえば礼もろとも消滅してしまう恐れがある。

「聖…」

つまり、黒龍として覚醒してしまった聖にも影響を及ぼす。

「それだけじゃない。俺に技を伝授してくれた望月さん、瑠唯のパートナーの青龍だって、お袋も。でも、それでもタナトスは消滅するべきだ」

「自分が死ぬかもしれないのに!?」

「これからの命が滅ぶなら、犠牲になるよ」

「ねぇ、輝樹くんはそれを望んで死んだの?」

「データ上では」

「どういうことなの!?」

「声が大きい」

聖に諌められ、黙るサキュバス。

『いつどこでタナトスの監視モニターに映るか分からない。だからあまり大声を出さないで』

紙切れを出せるだけ出すと、葵は続けて文字を書く。どうやら筆談の方法をとるようだ。

『少なくとも彼が死んだ証拠がありません』

『どうして』

葵に続けて文字を書くサキュバス。

『ローパー…つまり兄さんは、死んだと見なされた輝樹さんの遺体を見掛けなかったと言ってました』

納得していないのか、サーペントは首を傾げながら葵に続く。

『もうひとりのローパーがいないから、遺体回収に手間取ってるだけかも』

『それはありません。今日、くまなく歩きましたが、昨日死んだ人達の遺体はすべて綺麗になくなっていました』

『とすれば、嘘をついたのかもしれない。ましてや彼に人の情があるのなら、輝樹くんの死体を見つけたとしても、死んだなんて言えないよ』

『嘘をつくほど兄さんは器用じゃない』

『生き別れの兄弟なのに仕草など分かるの?』

『葵は人の言動に敏感だから』

『仮にそうだとしてもこのゲームにはドロップアウトした。だったら』

『これ以上情報を垂れ流すことはできません』

一度筆談を終えると、黒い風呂敷をサーペントに手渡す葵。風呂敷に包まれた物を開けようとすると制止される。

「なに?」

「ギリギリまで開けないでください」

「どういうことなの?」

「話している暇はありません。死ぬ覚悟がないのなら、返してください」

冷酷な言葉に、我が娘ながらなんてことを言うのだと耳を疑うサキュバス。

「ラフォーレ姉妹に対抗するには、やはり犠牲が付き物です」

「じゃあ君は最初から僕を捨て駒扱いってわけ?」

いささか不機嫌になるサーペント。

「それが嫌ならいますぐここで死んでください」

間髪入れずに銃口をサーペントに向ける葵。それはもはや気弱な面影など残っていない。

「君は愛する人の前で人を殺すことはできるのかい?」

「えぇ、僕は聖さえも殺そうとしましたから」

闇一族であるサキュバスとサーペント以上に、闇一族らしい発言にぎょっとする。

「だよね?聖」

「まあな」

苦笑する聖を見て、事実だと感じさらに戦慄が走る。

「それともサーペントさんが生きて帰るとすれば、僕を殺さない限り無理でしょう」

「…まさか、君がJOKERなのか」

「はい」

銃口を向けたまま顔色一つ変えない葵。

「だからこそ貴方を生きて帰せない立場になりました。ライフルは1つ。ただし、いつ撃つか分かりません。もちろん、心臓部ではなく、脳髄を狙います」

この前まではライフルはおろか、聖さえ怯えていた彼女だ。

「これが、このゲームの毒気なのかい!?」

死のゲームでついに葵も輝樹同様に気がやられてしまったのか。

(いや違う)

葵の撃つ焦点が脳髄から微妙にズレている。背中の汗が彼女なりの精一杯の脅しである証拠なのだ。

「お願いだから、葵を人殺しにしないでくれ」

「えっ…」

聖の言葉に戸惑いを隠せない葵。

「頼む…。先生の父親にこういうことを頼むのは本当に失礼だと思う。でも」

眉間のシワに寄せられた彼の苦悩にため息が漏れる。

「言いたいことは分かっている。闇一族に入ってしまった以上、こういう宿命なんだろう。聖くん、葵さん…」

「最期の手向けに一つだけ貴方にねたあかしをさせていただきます」

「ネタ明かし?」

「その袋に入っているもの…それは」

「それは?」

「唯一ラフォーレ姉妹を倒せる代物です」

それもその筈、輝樹がラフォーレ姉妹より一回りも二回りも格上のローパーガールを意図も簡単に死滅させたものなのだ。

「分かった。聖くん、葵さん。そして美月。君達の中で生き残った人物が、これをリリアンに渡してくれないか」

手紙を渡される。そもそもサーペントもといサークレットは、このゲームで死ぬつもりだったのだ。

「最初から生きる気はなかったのね」

「リリアンと対峙して死んだ時から、さ迷い続けた。でも美月。君はプリンスに会いに行くんだ。だから…君の選択は任せたよ」

「サークレット…」

最期のねぎらいを掛けられ、複雑な気持ちになる。

「ただ、君が帰るとなると…」

「娘を殺すしかない。そんなの嫌よ。聖にも殺してほしくない」

「………」

「ふふふ!皆殺しにすれば私達の優勝は決まったもの同然」

蒼太と対峙していた筈のラフォーレ姉妹が、予想以上に短い時間で現れたのだ。

「ローパーなんて、所詮は人間…」

「まさか!?」

「残念でしたわぁ。もっと楽しみたかったのに」

「その返り血は兄さんのものなのですか?」

「と言いたいけれど、タナトス様があいつに帰還命令を出されたからねぇ。あいつを生かせて何の意味があるのよ」

むしろ、それは葵に向けられたいままでの罵倒に酷似していた。つまり、蒼太も闇へ葬り去られた数多くの参加者に侮蔑や軽蔑を向けられたのだ。

「生きるのに意味なんて必要なの?」

「ましてや君達も、かつてはローパーガールと同じ戦闘人形だった」

「違うわ!!ローパーガールは、もともと人間だったのよ…」

「無垢な魂を奪い、ただの戦闘人形にしたのかタナトスなら、憎むべき敵が違うのでは?」

「くっ…」

ティビィの唇が真一文字に閉ざされる。

「確かに憎まなければならない。しかし、私達は闇一族である以上、あの方には逆らえない。だから反逆者であるサキュバス、サーペント。そして貴方達を殺さなければならない」

「タナトス様に盾突けば、中川輝樹のようになるのよ」

「分かった」

黒い袋から中身を取り出すサーペント。その代物を見て、回避しようとするも、葵の影縛りに遭い身動きが取れなくなる。

「いつ、グルになったのよ!!」

「彼女を敵に回すと怖いからね」

「まさか…」

「そのまさかです」

その瞳はあの時見た死神と同じ眼差しだった。






………be continued


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