【暗黒の狂詩曲3】

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一方、その頃サキュバスとサーペントはラフォーレ姉妹相手に苦戦していた。単体で戦えば大したことはないのだが2人のコンビネーションは絶妙なので、流石のサキュバス達も手こずるのだ。

「流石、闇一族推進派ってところかしら」

「残念ながら、先輩達は私達に殺される運命にあるんですよ」

「そうだろうね。君達は闇一族の新世代を担うだろう」

「でも、私は反対よ」

「反対されてもいずれ私達がこの世界を支配するのですわ。リリー先輩が殺されてしまった今、闇一族を背負うのは私達しかいない」

「そうだとしても必ず闇一族を滅ぼそうとする輩はいる。そして無駄にお互いの犠牲者が増えるだけ。もううんざりなのよ」

闇一族らしからぬ発言に、口をへの字に曲げる姉妹。

「そういう考えは、誰に染まったんですか」

「友人よ。闇一族だろうがなんだろうが受け入れる恋人がいた。あの子を見て、偏屈になる必要性はなかったと後悔すらしている」

「あれは裏切り者です。どうして佐伯玲奈を仕留めなかったんですか」

魔法玉を溜めるティファ。

「仕留めようとしたわ。でもその恋人が庇って…死に際にこう言われた。殺さなきゃいけない筈のあんたを見逃したのは、友情だって。だから今は玲奈に対して申し訳ないことをしたと思う。今更謝ったって許してもらえないけど」

「友情?くだらない。そんな情にほだされるから負けるのです。サーペント先輩もそうでしょう?」

話をサーペントに向けるティビィ。殺意の眼差しをひしひしと感じる。

「確かに君達の言う通りだよ。僕の場合は、妻と対峙しなければならなかった。妻も僕も苦しい戦いだった」

「今、貴女の息子と玲奈が結婚したそうよ」

「彼女とかい?雅也くんの死を徐々に受け入れたんだろうね。リークなら天性の明るさで彼女を」

「違うわ。フラットの方。私あの子達と戦ったことがあるから顔は知ってる」

「フラットが…」

魔法玉が最大まで膨らんだ。

「世間話はそこまでにしてください。まあ時間稼ぎにはなりましたが。さて、遺言の伝言なら今受け付けますよ」

「遺言は直接言うわ。貴女達なら捏造しかねない」

鞭を片手に身構えるサキュバス。隣で魔法陣を形成しだすサーペント。

「ふふふ。安心なさい。貴女の娘も息子もすぐに地獄に堕としてあげますよ」

「それだけはさせない!」

「サーペント先輩には関係ない話でしょう?何をそんなにむきになっておられるのですか」

魔法玉が放たれる。魔法陣で封じ込めようとするとティビィがサーペント目掛けて無数のナイフを投げつける。鞭を振り回しナイフをたたき落としていくサキュバスだが、魔法玉に掠り、腕に大火傷をしてしまう。

「くっ…」

「戦闘センスすら鈍りましたね。ふふふ。利き腕の右腕はもう使い物になりませんね」

「留めを刺して差し上げましょう。いくわよ。ティファ」

冷笑を浮かべ無数のナイフをなんの躊躇もなく放つ。縦横無尽に向かうイフの歯先が容赦なくこちらに近づいてくる。

『End of LIFE』

絶対死の宣告をされたもので、死を免れた者などいない。ティビィは亡きリリーの次の処刑人の候補として、テストサンプルで参加させられた。その事実も知りつつも虎視眈々と数々の参加者を殺害してきたのだ。何を隠そう彼女のジョブはスナイパーである。先輩であるサキュバスに対する敬意はあれども情はない。次々と刺さり血を流すサキュバスを見てもなんら表情が変わらない。

「無様ですこと。ふふふ急追のコンビじゃ、連携も取りづらいでしょうね」

「残念ね!これはただの身代わり。人形よ」
血を流してうずくまるサキュバスは偽物なのだ。その証拠に本物のサキュバスは傷一つない。

「人形にしては随分と手の込んだ」

「通りでサーペント先輩が庇わなかったわけね」

「貴女達が勝てば間違いなく次回のゲームの主催者側になれるでしょう。主催者潰しの中川輝樹も死亡者にリストアップされたし」

「ふふふ。その夢もあと、一日足らずで叶いますわ」

「ですから貴女方にはここで死んでもらいます。最大の敬意を込めて最強の技をお見せしますわ」

「遺灰さえ残らないぐらい華麗に消してあげますわ」

ティファの手の中から厚い氷の壁に灼熱の炎が宿る。それを分解したものをティビィのナイフに纏わせて、サキュバス一人に集中攻撃する。すると、サーペントが暗黒のバリアでそれを防ぐ。

「甘い」

防いだはずのバリアが音を立てて崩れさる。

「残念ながら、貴女方はここで死ぬ運命です。抗うことはやめなさい。惨めですよ」

突き刺すような冷たい眼差しに尚立ち上がるサキュバス。

「惨めだと言われてもいい。だけど、はいつくばっても護りたいものがあるから、諦めるわけにはいかない」

「そこまで、俗人間に染まったらおしまいですね」

「残念ながら私達は生まれながらの、闇一族じゃないの。貴女達2ndとちがって」

セカンドと呼ばれるラフォーレ姉妹。亡きリリーと同じ元々は人間だが、人造人間として、タナトスに作りかえられたためセカンドと呼ばれる。

「ふふふ。天下のタナトスですからね。貴女達ごときには倒される筈がない」

「別に倒すためにここに来たわけじゃない」
「たわけが」

何本ものナイフが連なった武器をサーペントに向けるティビィ。

「闇一族として失格ですわ。本当に腑抜けですねお2人とも」

「腑抜け?さっきから何度も攻撃を仕掛けてくるけどイマイチ当たってないわよ」

ボロボロの状態で不敵な笑みを浮かべる。

「何を説得力のないことを言ってるのですか」

「強がりもいいところですよ。ふん、雑談が入るとどうも時間が掛かりますね」

時計を確かめようにも4人とも腕時計を持っていない。するとタイミングよくタナトスの全体放送が始まる。

『こんばんはみなさん。現在0時になりました。今回のイベントゲームは朝6時まで一時停止します。ただし、反逆や本部のテロ行為が確認され次第、容赦なく処刑人を排出します。それではごきげんよう』

処刑人である蒼太な過酷な労働状況に、密かに心を痛める。

「さてと、俗人間の貴女方に2つの選択肢をあげます。今すぐここで殺されるか、暁の月が西に沈む6時の時刻に殺されるか。どちらにせよ殺される運命ですが」

葵や聖がいなければ今すぐに殺されたって構わなかった。でも、今すぐ殺されたら必ず彼らが狙われる。自分達を除いて生きているのは、ラフォーレ姉妹、そして葵と聖なのだ。

「6時まで、時間を下さい」

手をついて土下座するサキュバスとサーペント。自分達の命はいずれも散らされる運命なのだ。サキュバスとは事情が違うが、地上世界にいる生き別れのリリアンとその息子達に被害に行かせないためにいま土下座をしている。

「分かりました。せいぜい短い時間で死を想えばいい」

「ただし、6時になった時点で貴女方は死にます。いいですね」

「分かったわ。ただし、貴女達は主催者ではない。私達が貴女達に手をかけても文句は言えないでしょ」

「できればの話ですよ。では」

忽然と消えるラフォーレ姉妹。完全に消えたと同時に倒れ込むサキュバス。彼女達の前では先輩である手前強がっていたが、いなくなると一気に倒れ込む。

「サキュバス!」

駆け寄り、そっとマントを被せるサーペント。

「どうしようかしら。別れの挨拶に行ける程、体力もないわ」

ティビィから繰り出されたナイフで致命傷とはいかないまでも、無数の傷でところどころ血が流れている。サーペントでさえ血だらけなのだ。

「馬鹿ね私も。人を好きになってしまった時点で、闇一族失格だわ」

「僕もだ。いや、闇一族になるべきじゃなかったんだよ貴女も僕も」

「本当ね。自分達のせいで子供達が可哀相な目に遭うのよね。あの子達は何も悪くないのに」

爽と葵達と別れ再び、闇一族になった時は涙など枯れ果てたはずだ。しかし、今そして未来を生きようとする子供達を思うと泣けてくるのだ。

「ねぇ、サーペント。貴方は後悔してないの?闇一族になってから一度も息子達に会わなかったけど」

「会ったところで、会話も出来ないよ。僕が闇一族になったのは、彼らがまだ物心が着かない頃だったから」

「実は貴方の息子が、玲奈と結婚したらしいわよ」

「そうらしいね…。リークは未だに僕を憎んでるから連絡すらくれない。フラット本人から、聞かされたよ。初めて玲奈と出会った時のこと、雅也くんの死のこと、雅也くんに負い目を感じていたことも」

「そう…」

「雅也くんは君が殺したって言ってたよね。でも本当は、手術すれば助かる程度の傷だった。なのに雅也くんは生きることを諦めた。むしろ妹の方が危篤状態だった」

目を見開くサキュバス。

「つまり、玲奈より景を愛していたということ?」

「フラット曰く、玲奈は雅也くんの遺書になる手紙で真意を知ったんだって」

「それじゃあ…玲奈が闇一族から出た意味なんてなかった。結婚も約束したのに」

「トニー一族特有の善意だよ。最初は現実を受け入れられなかった。でもフラットはめげなかった。あの子は最初から玲奈しか見てなかった」

「本当、敵ながら感慨深いわね。あのちびっこが玲奈の旦那になるまで成長して」

「そして昨日、子供が生まれたって」

「どこでその情報を?」

「小型通信機。写真もあるよ。ほら」

玲奈に抱かれる赤子を見て、かつて蒼太や葵を胸に抱いた頃を思い出す。

「懐かしいわね」

「気性がなかなか荒いみたいだよ。フラットは大人しい方なのに」

「玲奈も闇一族の頃は比較的大人しい方だったのに」

「だったらリリアンに似たんだな」

一度は殺された相手なのに、微笑むサーペントに、今でも彼女が愛おしいのだなと分かる。

「葵はお父さん似で、蒼太は私似だったわ。本当再会した時ね、爽さんが迷い込んだんじゃないかって思ったわ」

「本当に葵さんは、プリンスに瓜二つで…」

「聖は礼にそっくりだった。礼に崇高する爽さんを見てるようで…」

「そうなのかい」

「二度と会わないと心に決めたのに、どうしようもない母親だと思われたわ」

「………」

「…サークレット。ラフォーレ姉妹はどこに行ったと思う?」

振り向くと悲愴なる顔つきのサキュバス。それを見て、すべてを悟ったサーペントは立ち上がる。

「サキュバス…いや美月。体力は持つかい?」

「大丈夫。ただし生きて帰れないわね」

「何を今更」

サキュバスを背中に負ぶると、ラフォーレ姉妹が行きそうな場所に走り出す。

「血の臭いがする!!」

「……この臭いは闇一族?」

臭いが強く感じる倉庫に入ると、血を流しながら斧を構える葵と、サキュバスの気配に気づいた冷笑を浮かべるティビィ。

「ふふふ。こともあろうか娘を見捨てるなんてね。この女は貴女を見捨てたのよ」

「違う!!」

『美月さんはそんな女じゃない』

猛々しくまがまがしい漆黒の龍のその声に目を見開くサキュバス。

「まさか!?」

『ごめん…もう駄目だった』

悲しげに映る瞳に胸が苦しくなる。

「残念だけど、徳川聖は我等の配下に下った」

首筋にある爆破装置とは別の黒い首輪。それはまさしくかつて爽が礼に着けた首輪だった。サキュバスの目の前から去った後、ラフォーレ姉妹は倉庫にいる葵と聖を捕らえた。その際、死ぬか配下になるかを選ばされ、聖自身の意志で配下になることを選んだ。

「直に徳川葵も我々の配下にあたります」

「配下なんかになるか!!」

『ごめん』

「僕の命ならあげるから!!」

自分の胸にナイフを突き刺そうとする葵を見て、真っ先にそのナイフを鞭で弾き飛ばすサキュバス。

「自ら命を絶つのはやめて!」

「でも、こうしなきゃ聖は帰れないんだよ?」

「友達の遺志を引き継いだんじゃないの?生きて、このゲームをぶち壊すと」

「まだ、そんなことが言えるんですね。私達ラフォーレ姉妹の優勝が確実なのに」

「優勝などさせない。こんな悲劇のゲームはもうこりごりよ!」

「ふふふ。私達に勝てないくせに何をほざく」

無数のナイフを構えるティビィ。

「聖…。貴方はまだ人の心を忘れてはいない。だから私達のように闇に呑まれちゃだめよ!!」

覚悟を決めたサキュバスはピアスを外し、葵に投げ付ける。

『美月さん?』

「葵、お父さんに言ってくれる?サキュバス…いえ、鮎川美月は貴方を愛してると」

「母さん!!」

サキュバスの覚悟に胸を締め付けられる。

「母さん」

その声にその場にいた全員が倉庫の外を注目する。そこには休憩していた筈の蒼太がいた。

「どうして!!」

「きっともう会えない気がした」

相変わらず表情は読めないが、微かに震える拳で悲痛な気持ちが伝わる。しかし、カードを大量に持つ彼はラフォーレ姉妹にとっては恰好の餌食だ。

「兄さん来たら駄目!!」

「飛んで火に入る夏の虫ですわ。覚悟なさい。ローパー」

葵からピアスを受け取り耳に取り付け、人間の姿に戻った聖はあろうことか蒼太に近づく。

「あんた達に、蒼太は殺せやしない。こいつは俺が始末する」

蒼太の盾になるとは正直予想していなかったのか、ラフォーレ姉妹もサキュバスも面食らう。

「処刑人だって人間だ。確かに殺人鬼かもしれない。でも、美月さんや葵にとっては家族なんだよ」

「ゲームの中では、家族も殺す相手になりますわ。そんな甘い考えでは先が思いやられる」

そのまま、聖と蒼太目掛けて無数のナイフを投げ出すティビィ。それを印ではねつけようとすると、死神刀を振り回しすべてのナイフを弾き落とす蒼太。

「印を無駄遣いして、俺との決闘で不利になっても知らんぞ」

「お前こそ体力使い果たすなよ」

「ふっ、俺を誰だと思ってる」

アイコンタクトで合図すると、気配を気付かれないようにこっそりとサキュバス達と共に移動させる葵。

「参加者に加勢したらどうなるかお分かりですよね?ローパーさん」

鳴るはずの時限装置のアラームが鳴らない。そのことに疑問に感じたティビィは、蒼太に近づくも、オーラの気圧だけで吹き飛ばされてしまう。

「残念だが、期待外れのようだな。次期幹部候補のラフォーレ姉妹」















………be continued

 

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