【暗黒の狂詩曲3】

□15
1ページ/1ページ

同刻。ローパーガール、ゴーレムの死亡を確認すると、盛大なため息をつく。なにせ自分の後継者として彼女に入れ込んでいたのに、参加者に意図も容易く殺害されたのだ。その殺害者が死亡者である筈の中川輝樹。しかも自分が一番忌み嫌っていた人物に殺されたのだ。

「ただでは死なない男だとは思いましたが、こちらまで損害をいかせるとは不愉快ですね」

イベントゲームに主催者で唯一生存者である蒼太が、一時帰宅する。

「死体処理ですが、中川輝樹が死亡したであろうE4付近を確認しましたが、死体が見つかりませんでした」

「木っ端みじんで死体がみつからなかった。でも首輪は回収したのでしょう?」

「えぇ。死亡者ですから」

輝樹から奪いとった蒼太から首輪を差し出され。手に取るタナトス。

「ふふふ。ローパーガールを失ったのは残念ですが、反逆者が一人減りましたね」

「えぇ。しかし油断大敵ですよ。徳川聖。そして俺の妹もいますので」

「できれば、その2人も抹殺願いたい。それ以外はみな闇一族なんだろ」

「えぇ。アーサー以外はみな闇一族の者です」

「これをごらんなさい」

ある場所を映したモニターを見せる。そこには、サキュバスとサーペント。そして対角線上にいるラフォーレ姉妹。場所は指令本部付近のE4エリアとは反対側の、C4エリアにいる。

「ほほう、共倒れですか。それかどちらかが勝つでしょう」

コーヒーカップを渡すタナトス。差し出されたカップを注意深く見る。

「毒薬は入れてませんよ」

「いえ、いつものコーヒーより薄い気がして」

微妙な濃さの違いを当てた蒼太に感心するタナトス。

「ふふふ」

「私の妹に飲ませた媚薬類ですか?それとも、強壮剤?」

「確かめてみますか」

「結構です。成分は飲まなくても分かります。脱抑制剤ですね」

正式名称は違うが、成分を当てられ目を見開くタナトス。

「私の手には乗りませんか」

「副作用が酷いのは勘弁です。それに、後継者が亡くなった今どうするおつもりで」

第一後継者として、ローパーガールを推していた。しかし彼女が亡くなった今、継げる人間は蒼太しかない。

「…貴方は不適格ですね。彼女と違って人間ですから。となれば現役続行するしかありません。幸いデータは死守しましたので」

「その方が運営も滞りなく動くでしょう。しかし、データ管理のアンドロイドがまだ発見できてません」

「確か、中川輝樹の配下についたはずです。彼の遺体周辺を探してきます」

「くれぐれもローパーガールみたいにヘマをしないように」

煉獄刀を片手に、輝樹の死んだ場所に向かう。すると、木っ端みじんにされたゴーレムの部品が散らばっていた。

(あの爆破装置にこんな威力があったなんて)

同じ主催者だった、馬熊に取り付けられた爆破装置はビル1棟ごと破壊してもおかしくないが、参加者の首輪にある爆破装置はせいぜい二畳まで破壊するしかできない。

(となれば、相互効果でリリーとゴーレムの爆破装置を破壊したのだろうか)

案の定、彼らの爆破装置は発動されていた。死の淵に立たされた輝樹がとっさに行動したなら、自分より遥かに恐ろしい精神力の強さを持っていたに違いない。しかし、肝心の彼の遺体が見つからない。煉獄刀で瓦礫を破壊して、探すもやはり見つからない。

(どこにいるんだ。輝樹…。葵は無事なのか!?)

主催者としてあってはならない憐憫の情が沸き上がる。しかし、自分が主催者の立場である以上、彼らを独自に探すことはもう許されない。すると、瓦礫の底からあるペンダントを見つける。それは、輝樹と奏と自分の写真。もう一つは主催者馬熊、モンスター側だったアルフレッド、かつての優勝者のレーネだった。実の父を殺され、母には会えない輝樹を心から哀れむ。

(お前はここに来ちゃいけなかった。こういう運命になることが目に見えていたから)

すると、自分以外の気配を感じる。とっさに身構える。

「どうやら輝樹は死んだようだな。その遺体処理ってところかい?ローパーさんよ」

「あぁ。残念だが俺に手持ちのカードはない」

「だからなんだっていうんだ。邪魔なんだよ。タナトスの駒め」

銃弾を放つのは、アーサーだ。とっさに刀で銃弾を一刀両断する。

「アーサー・カインド。タナトスの哀れな最後の息子」

「輝樹がいないなら、そうなるな」

「残念ながら中川輝樹は、タナトスの血なんて一切入ってないんだよ。だがそれをあいつが知っているかどうかは知らないが」

「なるほど赤の他人のために情を向けるなと言いたいのか。いいぜ。とことんやりあおうか」

銃弾を乱発する。その軌道を避けながら蒼太はアーサーに切り掛かる。首輪を爆破しようとしたその瞬間、胸に銃口を突き付けられる。

「知っているんだよ。胸に爆破装置をつけられてることをね。俺を爆破したら、躊躇わずにあんたも破壊する」

「契約は聞かない」

「相変わらず堅物だな」

一度離れて間合いをとる蒼太。

「立場上、お前を殺す。だが、俺は人間だ」

「よく言うぜ。実の妹の前で参加者を切り付けたよな?この人でなし」

「人でなしだと言われても、もう何も感じやしない。お前こそタナトスの反乱を考えているようだが、中川輝樹のようになりたいのか」

僅かに目を見開くアーサー。

「優勝したいなら、下手な真似はするなと言いたいのか。生憎願いごとを叶えるなんてまやかしに過ぎないんだろ」

再び銃口を向ける。

「そのまやかしに惑わされ、参加したのはお前達の方ではないか。主催者が独自に選抜する輩もいるが、大半はお前達の意志だ。勘違いするな」

「残念ながら俺は選抜された方だ。生憎そいつらの気持ちは分からない。そして主催者の意向もな」

アーサーに隙ができた途端、銃を両断しかつ聞き手を切り付ける。あまりの痛みに、思わず顔を歪めるアーサー。

「むやみに命はとらん。しかし、今のお前に勝ち目はない」

「思い上がりもいいところだといいたいが、この手が使えない今、大方正しいだろう。だが、諦めは悪いんだよ。さあ、今のうちに逃げた方がいいぜ?」

なんと、サバイバルナイフで自分の首輪を切り付ける。案の定爆破までのカウントダウンを知らせるアラームがトンネル中に鳴り響く。

「自殺とは、愚かな」

「勝ち目のない勝負に出た。残念ながら輝樹のように、道連れ自殺はできないが」

「自殺じゃない。あいつはローパーガールに爆破装置を起動された」

「はははは。無駄死にってことかい俺は」

「残念ながら、俺は自ら道連れにされる気はない。苦しまずに死にたいのなら、一撃を与えるが」

「やだね。タナトスの駒に殺されるくらいなら、自分で死んだ方がいい」

「仕事の手間を増やさないでいただきたいものだな」

「仕事になっていいじゃねぇか」

「生憎スプラッタは嫌いでな」

「仕事はするべきだぜ。タナトスの反逆と見なされる」

「お前が死亡者として放送されてからでないと、確認には行けないんでな」

アラームの間隔が短くなる。

「まあ、こちらとしては殺す手間は省けるが」

「人が死ぬところを見すぎて麻痺したか」

「だな。これは俺からの冥土の土産だ。受け取るといい」

輝樹達が写っているロケットペンダントを渡す。すると、愕然とするアーサー。そう、蒼太と輝樹は前から面識があったのだ。

「知り合いだったのか!?」

「知り合い以上の関係だったよ。まさかこの時は敵同士になるとは思わなかったが」

「くそぉおおおお!!」

今更ながら、自分のした行為に後悔するアーサー。しかし、次の瞬間首に鮮烈な痛みが走り、その瞬間体ごと引きちぎられる感覚に襲われ、視界が真っ黒に染まりそのまま息の根が止まる。それを自分の被害に行かないところまで離れた蒼太は、ただ呆然としてアーサーの最期を見送る。そして、死んだと確認してから、彼のカードを奪い、そのまま遺体のかけらをかき集めて、再度指令本部に戻り、遺体処理室に彼の亡きがらを安置する。そこであることに気づく。あの爆破装置でさえ、人一人を木っ端みじんに出来るのだ。となれば輝樹の遺体も体の部分が散り散りになって発見される筈だ。

(輝樹はどうやって死亡判定された!?)

そして彼の配下になったアンドロイド2体の姿はどこにもいなかった。得たのは、アーサーのカードただ1つだけだ。

(アーサー・カインドは自殺した。となれば、生き残りは闇一族の4人。そして聖。葵……。タナトスの思い通りの展開になってしまったな)

いつの間にか安置されていたローパーガールの死体。いや、ローパーガールの本来の人間体を見遣る。

(お前もタナトスに動かされていただけに過ぎなかった。タナトスを除いてこちら側の生存者は俺1人となった)

主催者同士、義務的な関係でしかなかった。自分と同じ人間だった馬熊徹哉。自分と同じ立場だったローパーガール。そしてアンドロイド。この5人あってのデスゲームだった。

(輝樹の思惑通りになれば、いずれ聖と対峙する運命となるだろう)

自分自身、聖に対してはあまり感情的にならない自信がある。しかし葵がその場面を目の当たりにしたら、きっと悲しむ。そして、双方の攻撃を妨げるために自分を犠牲にするに違いない。

(他人の死など、どうでもよかった。でも、妹だけは…妹だけは生きて帰したい)


『やはり、妹が恋しいのですか蒼太くん』


その言葉に耳を疑う。それはタナトスの声ではなく、かつてタナトスの反対の立場にいて死んだ筈の馬熊徹哉だ。

「ドクター…どういうつもりだ」

「私は最初から今回、関与できませんでした。貴方が死んだと思われているのは、ダミーです。残念ながらアルフレッドは本当に死にましたが」

彼の話によると、前回輝樹に接触しすぎて今回主催者から外れてしまったのだ。

「輝樹の死は信じ難いですね」

「同意する」

「現にアーサーの死体を見れば分かります。それに、僕のダミーも木っ端みじんだったでしょ」

すると、タナトスが死体処理室にやってきた。

「おやおや、選抜者でない貴方がどうしてここにいるのですか。本来なら爆破したいところですが、指令本部での混乱を招けば、仲間割れと見なされ、そこに参加者が付け込みますからね」

「お気遣いありがとうございます。安心して下さい。今回参加者とは一切コンタクトしておりませんから」

「でしょうね。まあいい。参加者達の最後を高見しましょう。そろそろイベントゲームも終盤になります。ローパー。いや蒼太。そのカードがある限り、君は参加者から付け狙われますよ」

「承知しています。しかしここで死ぬわけにはいかない」

「えぇ。主催者が1人でも生き残れば、デスゲームは引き継げますからね。とりあえず死体処理ご苦労様。しばらくここで馬熊くんの監視をしながら待機で」

「了解しました」

タナトスの背中を見送った後、輝樹が死んだ後の状況を伝える蒼太。

「なるほど。だとすればこうなりますね」

蒼太に耳元であるキーワードをつぶやく徹哉。

「あの状況下で…。やはり、ただ者じゃなかった」

「しかし誰にも口外してはいけません。混乱を招きますから。それと輝樹は…」

「あいつは」

「本来はタナトスの名前を継ぐ筈だった。レーネからタナトスは輝樹を奪った。レーネは生きています。でも終身刑です。きっと私も地上世界に戻れば、同等の罪いや死刑も免れません。輝樹がさらわれた時、すでに私は主催者側でした」

「じゃあ…どうして主催者側ではなく参加者側に?」

「私が逃がしたのです。医師時代に知り合いだった棗さんに彼を委ねたのです。でも、とてもじゃないけど、このゲームのことは言えませんでした」

つまり、主催者側になる未来を潰したのは父である徹哉だった。

「ちょうど貴方が主催者側としての訓練を受けだした時期でしたね。その時すでに輝樹は、スナイパーとして闇の世界では恐れられるほどの実力があった」

「じゃあ俺が主催者側じゃなかったら、ローパーになった可能性もあった?」

「ローパーじゃ役不足ですよ。見たでしょ?あの子は、動体視力も瞬発力も優れている。そして、タナトスがネットワークを断ち切らなければ、優勝者を待たずしてこのゲームは終わっていた」

頭脳も体力もずば抜けていた。

「タナトスも当初は、彼を継がせるつもりでした。しかし私が逃がしたことをきっかけに危険分子と見做した。だから、偽りのデータを私のダミーに敢えて渡したのです」

時計塔が爆破してデータを奪われた時の動揺の仕方は、完全なる演技だったことが発覚する。

「彼の素質はいまでも十分にあります。でも、1つ弱点があるとすれば、人としての感受性が豊かすぎた。それは僕にとっては誇るべきことだけど、タナトスにとってはネックだ。その点、君は割り切りが早かった」

「しかし、輝樹と比べると数段劣る。だからローパーガールを継がせようとした」

「ローパーガールには荷が重すぎでしたね。輝樹相手じゃあいくら優勢でも、負けを見るというのに馬鹿です」

「馬鹿な女だったな」

「さて、蒼太くん。君はタナトスのゲームを壊された時共に爆破される身となりますが、どうされますか」

「宿命だ。この手であまたの人間の命を奪ったツケだな」

血液特有の酸化鉄の匂いが手にこびりつき、離れない。

「誰かを護ろうとすればするほど、逆に壊してしまう」

「妹さんのこと」

「いや、礼さんのことだ。輝樹より前にタナトスは彼を後継者にするつもりだったらしいからな」

データ通の徹哉も、初耳なのか目を見開く。

「それを阻止したかった。親父も阻止するために闇一族になってしまった。親父と全く同じ道を歩む結末になったが」

「私もです。レーネと輝樹を守るために敢えてこちら側になった」

2人とも願いとは対照的に、自分達が重ねた罪に苦笑する。

「ダミーのやったことは無駄なんかじゃない。あれで、輝樹はタナトス打倒の気持ちが強まった」

「本来なら私達の手であの方をあやめるべきだった」

「この呪縛さえなければ、すでにそうしていたさ」

胸に手を当てる蒼太。

「結局はその想いを委ねるしかできませんがね」

「葵ならやりかねない。聖もそうだ」

「あの2人は、輝樹が死んだことによって遺志を引き継ぐでしょう。ゲームが終わったら」

「全力で迎撃する」

その声が微かに震えていたのを、感じ取ったのか、蒼太も人としての情が残っているのだなと、不謹慎ながら安堵した。






………be continued


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ