【暗黒の狂詩曲3】

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※第三者側(表記が蒼太→葵になります)

「まさか、こんな早くに気づかれるとは…」

ローパーと葵の関係性を、モニター越しで見ていたタナトスはため息をつく。

「参加者との介入はあれほど止せと忠告したのに。困りましたね。ねぇローパーガール」

隣で頬杖をつきクッキーを食べてくつろぐローパーガール。

「所詮私達とは相容れない。そうでしょうタナトス様」

「だとしたら、彼を敢えて次のゲームに出して、参加者と殺し合いをさせればいい」

「それは名案ですわ。しかし私は?」

「おや、参加したいのですか?」

「退屈ですもの。あれから死者は出てないから仕事もなくて」

「貴女が直接手に掛けたら全員死ぬ可能性も出てきますね」

「あらぁ、そこまで残酷でしたかしら私。むしろ兄さんの方がそうしかねないのに」

「非情さと冷静さなら貴女の方が数段上ですよ。彼は力はありますが、情があるゆえ本気は出せない。自分の妹なら尚更」

確かに手に掛けたが、寸でのところで見逃していた。それをモニターごしで見ていたタナトスだからこそ言えるのだ。

「だったら兄さんの目の前で徳川蒼太、いや徳川葵を手に掛けてあげましょう。そうすれば、兄さんは完全に理性を失う」

「貴女を殺しかねませんよ?」

「ゲームの進行のため致し方ない。自分の命など最初から捨てましたから。ね?タナトス様」

彼女の割り切りの早さに感心するように目を細める。

「それでこそ私の後継者です。次からは全面的に貴女をタナトスとしての名前を授けます」

「あら、少し早いんじゃなくて?そこまで急がなくてもよろしくてよ」

後継者とは言われていたが、突然すぎて戸惑いを隠せないローパーガール。

「今回で反逆者という愚か者がここに必ず来ます。彼は自分の命と引き返えに私を道連れにする。そうこの素晴らしき芸術ごと壊しにね」

ゲームのデータをパソコンで更新し続けているが、輝樹と奏がそれを潰し続けている。さらに、主催者側だった筈の馬熊徹哉の裏切り、そしてかつて闇の統領として君臨させた徳川爽の不穏な動き。天才をも凌駕する創成主と言われたタナトスが初めて今回のゲームでその立場を危ぶまれることになる。

「何せ、挫折というものを知らない私ですからね。天才というものは自分の力を過信するあまりに凡人よりさらに絶望へ引き落とされてしまう傾向にあるようです。ですから貴女にその役を頼みたいのです」

「なるほど。しかし私がタナトスとなる場合、KONTON☆倶楽部に加入した際の約束を果たしてくれないと困りますわ」

彼女の報酬は闇一族の復興だ。

「そうでしたね。貴女がゲームの最後まで生き残れば果たしましょう。さあ、次のゲームのことについてローパーに話しておきましょう」

無線を繋いでローパーに連絡するタナトス。

『宴の始まりです。ローパー、参加者の介入は許します。ですが、貴方には参加者を殺してもらう役をしてもらいます』

「なるほど。しかし私はカードを持っておりません」

『ですからローパー、貴方には最低1人殺める義務があります。そしてこちらがわ持ち札を奪う権利があります』


参加者が死ねば、これまで持っていたカードを主催側、もしくはモンスター側のものになる。つまり、こちら側がカードを大量に持参していて、参加者が殺してしまえば、すべてのカードがその参加者の手に渡るというハイリスクハイリターンのイベントゲームとなる。

『時間は後ほどお伝えします。ご機嫌よう』

通信を終えると、タナトスはゲームデータを作成する。

「名案ですわ。もちろん、ラフォーレ姉妹は参加するでしょう。そしてタナトス様の反逆をしようとする輩にとっては、またとないチャンスですわ。しかしそれはリスキーであり一気に参加者が減るというこちら側の利益もあります」

「その中で生き残った者同士で戦うとしたら、血生臭い戦いになりそうですね。見てるこちら側もわくわくしますね」

狂喜に歪む2人の口角。

「さてローパーガール。貴女なら真っ先に誰を殺したいですか?」

「ふうん。そうですね。闇一族の穏健派。正直言って地上世界の人間は別の機会でも殺害はできますからね」

闇一族である彼女の発言から信じられないのか、目を微妙に見開くタナトス

「おや、闇一族は生かすかと思いましたよ。貴女の願いは闇一族の復興でしょう?」

笑顔が一瞬にして、消えうせる。

「しかし、仲間内で穏健派などゴミ以下です。ゴミは処分しなきゃ」

「では、ローパーはどうしましょうか?彼も穏健派ですよ」

口角が弓なりに曲がるローパーガール。

「兄さんは、私の手では殺せません。彼に敵うわけがありませんから。ただし、参加者の中に同じ血筋が入れば情ができる。その弱みを握れば殺せます」

「本当に君は人でなしだ。いやあ実に素晴らしい」

「ふふふ。伊達に人を処刑してませんわよ。ただ兄さんの理性を崩したほうが手間は省けますが」

「彼が理性を無くした場面なんて一度もありませんからね。良くも悪くも節度を保ってますから。そりゃあ彼が大量虐殺して下さればこちらの手を汚すことなく、皆殺しができます」

そう優勝者はあくまでも、いたらだけの話らしく、モンスターであるゴーレムの所業で大量虐殺で全員死亡したケースがある。

「さすれば、タナトス様はどうされますの?」

「そうですね。生きていたら次回のゲームを考えます。貴女にはローパー兼サブリーダーとなってもらいたい」

やはり、人の死に感情を持たないローパーガールはタナトスにとって一番の右腕なのだ。

「それに、1つ貴女に特権を与えましょう」

「特権とは?」

「主催者側の爆破装置を解除してあげます」

「まぁ!そういう特権なら早くおっしゃってくださいな」

目を爛々と輝かせるローパーガールに目を細めるタナトス。

「もともと貴女は枷なしでも、よかったのですが、他の主催者に疑われてはならなかったので仕方なしに着けてました。このことは内密におねがいしますね」

人差し指を唇に当てるタナトス。

「それにしてもタナトス様。兄さんがなかなか帰ってきませんわよ」

「道草でしょうか。まあいいです。ゲームが始まれば嫌でも戦わなければなりませんから」

「なるほど。さて、今日はどんな服を着ていこうかしら」

「そうですね。主催者側だとばれない服がいい。背格好としては、葵さんと似てますね。それじゃあ彼女が着ていた服で化けるのが一番いい」

そうすれば徳川聖と中川輝樹を撹乱できる。また徳川葵への疑念を抱かせ、3人を仲間割れさせることも成功できる。よってゲームの撲滅を阻止できることに繋がる。

「妙案ですわ。ただし化けすぎちゃあラフォーレ姉妹に襲い掛かられちゃいます」

「彼女達にはネタバレしてもよろしいですよ」

「了解しましたわ」




一方、話がついた葵は、ベットの中で包まっていた。

「本当にごめん…」

「………」

「なあ、葵。こっち向いてくれよ」

布団をめくろうとする聖に手を払う葵。

「トラウマにさせちまった。それはどう考えても俺のせいだし、嫌いになってくれても構わない。でももう一度だけ俺の方を向いてほしい」

「断る」

「…葵」

葵がなかなか振り向かないので話も続かず困り果てる聖。

「…ごめん」

「何度もその台詞聞いたよ。もう黙ってて」

その声色に微かに涙が混ざっていたことを見逃さなかった聖は布団の中に入り彼女を抱きしめた。

「離して!!」

「振り向くまで離さない」

「なんで…どうして…」

「お前言っただろ。僕達はもう夫婦だと」

その言葉に限界まで目を見開く葵。

「…確かに言った。聖、僕は貴方がした所業が嫌で顔を向けられないんじゃないの。僕自身の問題なんだ」

「お前に非なんてない」

「ちがう。僕はあの時確かにトラウマに怯えて怖くて叫んだ。でも、本当は…気持ち良くて、良すぎて…怖かった」

「そうだったのか」

「なんて浅ましい体なんだろうって、思った」

何かに耐えているようにシーツを握り締めるその手をそっと握る聖。

「そんなことない。お前がそう思っていたのなら、俺は嬉しい。愛しい人がそう思ってくれたから」

「最後までできなくてごめん。聖は悪くないのに、輝樹さんまで誤解させて、頬をぶたれた…」

ゆっくりと振り向く葵の頭を撫でる聖。

「別にたいしたことじゃないさ。輝樹はお前が女の子だから、ちゃんと労れって言っただけさ。頬の跡はそのおまけ…」

怖ず怖ずと葵は聖の目を見る。

「ちゃんと受け止めたかった。貴方と一つになりたかった」

「俺もだよ。でも気絶してる女を抱く趣味はない。ただ輝樹に見られたタイミングが悪かっただけさ」

「繋がってるところ?」

するとクスクスと笑い出したのは、データ解析をしていたはずの輝樹だった。

「自分から言うなんて度胸あるね。そうだよその現場を見たんだ。君達は本当場所を選ばないんだから。僕は葵さんのほてりが覚めるようにしたかっただけなのに。選択した人物がいけなかったなぁ」

「………」

「葵さん。ごめん。君…」

「言わないでやってくれ。葵はそのことをちゃんと言ってくれたから」

「…やっぱり2人だから言えるんだね。はぁあ。僕も死ぬ前に瑠唯にプロポーズしておけば、何も隠す必要なかったんだ」

羨ましい気持ちを隠すため刺々しい発言を連発する聖。

「………」

「ごめん。作業に戻るね。2人ともゲームに備えてちゃんと作戦考えててね。くれぐれも手だししないであげてね。でないと撃つから」

そう言うと別室に戻る輝樹。葵は輝樹と話した作戦を思い出す。ただし彼から決して誰にも話してはならないと釘を刺されているのだ。

「葵…」

「どうしたの?」

「輝樹と何を話していたんだ?」

「……ゲームについて、どんな内容がくるか推測してただけです」

なるべく怪しまれないように、平静を装う葵。

「なるほどねぇ。ところで葵はどう思うんだ。次のゲームについて」

詮索したくないのか詮索してはいけないと本能で感じたのか、話を違う方向に持っていく聖。それを察した葵は罪悪感を覚えつつ安堵した。

「モンスターで生きているゴーレム2体を利用すると思う。貴方に傷を負わせるほど強いなら」

「どうしてそれを…」

「輝樹さんとサキュバスさんのやり取りを聞いてた。庇ったとはいえ、それ以外の対処法があった筈だと。でも避ける時間さえ与えなかった。そのゴーレム2体だけでもかなりの参加者を殺害できる筈。だからタナトスはそれを利用する」

「所詮は機械じかけのモンスター。ただそれだけでゲームを仕掛けるなら、つまらない。他のモンスターを仕掛けるか、はたまた処刑人をゲームに参加させるか」

「じゃあ兄さんも参加させられるの?そんなの嫌だ。戦いたくないっ」

「できれば戦いたくないけど、もし戦わなければならなくなった場合、俺が相手になる」

目を見開き震える葵。自分の大切な人達同士が戦う場面をシュミレーションしたら、どちらも無事では済まされないと予感した。

「そんなの嫌だ。貴方と兄さんが遣り合うなんて…」

「それがタナトスの狙いだと思う。仲間割れさせて自らの野望を果たすために俺達を殺す」

「じゃあ最初から優勝の報酬など、罠に過ぎなかったの?」

「悲しいがそれが事実だ。だからこそ輝樹はそのゲームをぶち壊したかったのさ。自らの命さえも捨てる覚悟でな」

「だとしたら、参加しなきゃ勝てないってこと?カードを奪えば有利になる。でもそれだけ犠牲者は増える。例え誰も殺さなくても優勝者が殺害者と言われるその所以はそこにあったんだね。僕はモンスターを2体も殺した。貴方はまだ誰も殺していないのに」

しかも最初のモンスターを殺害したとき、その現場を彼に見られた。

「………聖。これからは別行動にしよう?」

「どうして?やっぱりさっきの行為に傷付いた?俺のことを嫌いになったのか?」

「違う。貴方ならまだ狂気に染まってない。その瞳の紅も、生来のもの。でも僕は違う。完全に闇に染まってしまった。だから、もう理性も保てられない」

「ピアスが効かないのか?」

闇の効力を抑制すると言われているピアスを着けている筈なのに依然として、葵の瞳は赤黒い。

「だからごめん」

鳩尾を突き、聖から抜け出る葵。

「さようなら聖。また会う日まで」

「な、何故っ…」

彼女の不意打ちに目を見開き痛みに悶える聖。

「ちゃんと生きるんだよ」

その声を聞くと耐えられなくなったのか意識を飛ばす聖。気絶した彼の額にキスをする。

「ごめんなさい。輝樹さんと考えた僕達が貴方を生かす方法なの。許してね」

聖のそばに自分達がいれば戦闘時、必ず相手の攻撃を庇う。下手すれば殺害されかねないので、輝樹と葵は聖から離れることを約束したのだ。また聖から離れることによって彼には知られずにある作戦を遂行することができる。

その様子を見ていた輝樹は、そっと彼女を抱きしめた。

「苦しい判断をさせてごめんね」

「いいんです。聖が生きてさえいてくれば」

「体の方は大丈夫?」

「だいぶ楽になりました」

「じゃあ場所を移ろうか」

眠る聖に罪悪感を感じつつ、2人は外出した。その時すでに10時に回っていて、侵入禁止区域エリアを確認すると、幸い聖のいるC4のエリアはない。侵入禁止区域エリアになるのは7時間後なのでいくら気絶してもその時間までには目覚めるだろう。

「敵が来るまで、司令塔のあるD4付近にいるのが得策だね」

「でも…同じ場所にいたらまた…」

ラフォーレ姉妹に同じことをされてしまう。聖がいない今では、完全に不利になってしまう。

「誰か聖以外に協力者を集めなければ…」

葵以外には作戦を内密にする輝樹の発言としては、意外だった。

「でも、皆に知られたくないって」

「だったら僕が適任だと思うけど?」

背後からいきなり優が現れる。

「まだ諦めてなかったのですか」

「まあね。幸い僕は傷一つ負ってないし」

「…どうします?」

輝樹に耳打ちする葵。輝樹がなかなか答えないので、話を続ける優。

「おや、聖くんを見掛けないけど?」

その言葉の直後、輝樹は威嚇射撃を彼に放った。幸い素早く避けたため傷にはならなかったが、ただならぬ彼の殺気を感じたのか僅かながら恐れ戦く優。











………be continued


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