【暗黒の狂詩曲】

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※第三者視点

同刻。奏はクリスタルキャッスルの寝室で、デスゲームの画面と睨めっこしていた。

「どうや?奏ちん」

「今のところ、3人共死亡者リストには挙げられてないようです。ですが、未だ兄さんのパソコンは接続されてないようで」

「無事なだけ、大きな収穫だろう」

「……やな」

パソコンから体を離して、ベッドに突っ伏す雅。

「あぁあ…音声とか拾われへんの。にぃにおらんかったらつまらん」

「すみません。まだ誰にも通信が繋がらないみたいです」

「通信系のアイテムを取り入れるか…。確か、今回は通信オッケーだったよな?」

ルールを確認するため、キーボードを打つ奏に質問する瑠唯。

「えぇ、まさか聖先輩に連絡されるつもりですか?時と場合によったらあの人がジ・エンドになりますよ」

「責任は私が取る」

緊張した面持ちで、ピアス型の通信機能のチューイングを回す。

「こちらRS。応答せよ。こちらRS。応答せよ」

応答はない。やはり地下世界と地上世界では、流れる電波が違うのだろうか。再度呼び掛けても同じ結果だった。

「だめか…」

「繋がらないようですね。これだと生きてるか死んでるかしか分かりませんね」

パソコンで判明できるのは、聖達が生きてるか死んでるかの二択だけなのだ。これではどういう状況下にいるかが分からない。

「こんな時間やから、にぃに寝てもうたんとちゃう?奏ちんみたいに夜中まで起きとることめったにないし」

『…ちら…T』

僅かばかりだが音声を拾う。

「こちら。RS。無事か」

『…あぁ。輝樹にも繋がったぞ』

くしゃりと顔を歪ませる瑠唯。うれしくもあり、複雑でもある瑠唯。

『ごめん』

「…ありがとう。蒼太はそばにいるのか」

『残念ながら、俺の近くにはいない。輝樹も知らないみたいだ。さらに悪いことにあいつは、俺達と会いたくないらしくて』

意図的に通信を断ち切られていたのだ。彼以外の何物かに接続を切られたわけではなかったので、それを聞いて哀しくなる。

「…そうか」

『今はその情報しか知らない。あいつがどこにいるかも分からない』

「じゃあ、私が輝樹に掛けても無駄なのか」

『…期待は出来ないと思う』

「そうか。仕方ないよな。私達はあいつを止められなかった。今更話したくもないよな」

1年前の過失さえなければ、輝樹との関係は良好のままでいられたのだ。

『…君達のせいじゃないって、言ってた。あの行為は自分の意思だと』

奏は会話の邪魔をしないように、紙に言いたいことを記す。そしてそれを瑠唯と雅に差し出す。その内容に思わず目を見開く。

「奏、それ本当なのか?」

『兄さん自身が貴女方を避けるとしたら、こうしか考えられないでしょう』

そう奏は、輝樹が主催者側の血筋を繋いでいてかつそれを、発見してしまったと考えていたのだ。

『瑠唯ちゃん…?』

「あぁ、とにかく今日はもう遅い。適当な場所を探して休め。無事を祈る」

『お、おぅ!』

そこで、通信機の電源を切る。動揺を隠せない瑠唯。

「だとしたら、お前と輝樹は赤の他人になるんだぞ?」

「それしか今のところ理由は、思いつきません。だって僕がエントリーされないのに、彼がエントリーされるのは、それしかないでしょう」

長年自分と輝樹が兄弟として育てられて、赤の他人だと言われたなら、動揺を隠せないはずだ。しかし当の本人は至って冷静で、むしろ瑠唯と雅のほうが動揺している。

「なんでそんな冷静で、おられるんよ」

「5年前、寝る前にトイレに行こうとしたら、ドアが開いてて、両親の話を偶然聞いちゃったんです。兄さんは小さい頃、乳児院にいて、母さんが拾って養子にしたと」

棗と輝は、14年前に結婚式を挙げた。しかし輝樹は今年で20歳になる。できちゃった婚でもないとすると矛盾が生じる。

「結婚する前に、棗さんが拾った子が輝樹だったとは…」

「そのこと、輝樹さんに言ったん?」

「いや、言えてないです」

斜めに構えつつも、絆を大切にする奏がわざわざ断ち切るような真似はできない。

「それに、貴女方の仲を壊すわけにはいかなかった。兄さんがいたから僕を弟として、接してくれた。でも兄さんがもし他人だとしたら?貴女方は見向きもしなかったでしょうね」

輝樹の紹介で奏と知り合ったのだ。でもそのきっかけがなければ、奏と関わることはなかったかもしれない。

「性格の悪さは自覚してます」

首を横に振る瑠唯。

「もしそうだとしても、蒼太は違うだろう。あいつは、輝樹の弟としてではなく、中川奏としてお前と接した。お前が1人になる要素はなかった」

「…けど、奏ちんの気持ち分かるなぁ。うちかてにぃにが赤の他人やったとしても、兄妹として接するもん。そんなんわざわざ離れるために真実なんて明かせへんよ」

「…でもお前は言った。輝樹とお前は赤の他人だと。そしてあいつはそれを知ってしまった」

「だとすれば、自ずと答えは見えてきた。ただの赤の他人なら発覚しても、貴女や聖先輩なら関係なく仲良く接してくれる。現に貴女達は唯一無二の関係だった。でも、それがデスゲームの主催者側の血筋を引いていたら?兄さんは良心の呵責に苛まれる」

主催者側は、何のためらいもなくデスゲームで大量の人類を殺させ、そして殺したのだ。もし輝樹がその主催者側の血筋だとすれば、きっと彼自身がその罪の重さに耐え切れず、聖と瑠唯から何も言わずに消息を絶つだろう。現に一年間ずっと音信不通だったのだ。

「だとしても、輝樹は輝樹だ」

「…流石は兄さんの恋人。そのことについては動じないんですね」

「血筋では私もどっこいどっこいだろう?」

瑠唯の父親である佐伯和純も、第一代目の黒龍の血筋を引く。さらに彼は闇化トランスした過去もある。

「うちのパパだって、弟が闇一族の首領やったんやで?そんなんで輝樹さんとにぃにと瑠唯ねぇの絆が切れるかいな」

「確かに佐伯先輩も聖先輩も兄さんを一度も責めはしない。でも兄さんはそうじゃないかもしれない。これはデータ上じゃ何も分かりません」

とにかく3人が同じ場所にいなければその真相は明かされることはない。

「お2人はお休みになってください。僕もキリのいいところで、寝ますから」

「ちゃんと寝るんよ?」

「お気遣いありがとうございます。雅先輩、部屋は瑠唯さんの寝室で泊まってください」

「そうさせてもらうわぁ」

雅は先に、南の寝室に向かった。

「帰らなくていいのですか?」

「さっきの聖の言葉といい、気になって眠れん…」

「にしては、雅先輩はあっさりと帰りましたね」

「生存確認ができたから安心したんじゃないか?」

「あのブラコンの彼女が珍しい…」

前回のゲームで聖が、行方不明扱いになった時の雅の取り乱しっぷりといい、今回の妙に冷静なところといい驚かされるばかりだ。

「…蒼太がいるからだろうか」

「いや、蒼太さんとはまだ会われてないようですから、それはないです。さて、明日からは恒例のゲームのメインイベントが行われます。それまでに、兄さんのパソコンが見つかればいいのですが」

メインイベントの時間になれば参加者の死亡率と、カードの習得率が格段に上がる。しかしそれは同時に他の参加者がアイテムを得る確率も上がってしまうので、輝樹のなくしたパソコンが手に渡ってしまう。

「だとすれば、圧倒的に不利だぞ。参加者を殺せば殺すほど、有利になるこのゲームに私達の約束は真逆を行くからな」

そう前回のゲームで、誓い合ったことは、誰も傷つけず、誰も殺さないことだ。

「となれば、メインイベントしかカードを得るチャンスはない」

「ゲームに乗ってる奴は少なからずいる。そいつらの手に渡らないことを祈るしかできないな」

カードの譲渡先は地上世界の奏達には分からないが、死亡者の死亡場所と死亡原因はリストアップされる。そのデータを参考にすれば、ゲームに乗ってるかなんてすぐに分かってしまう。

「こればかりは運でしょう。もし、そういう参加者に兄さんのノートパソコンを取られた場合、強制的にノートパソコンにウィルスをばらまきます」

「それは法律違反じゃないのか?いくら15歳未満だからって、ジョブカードのライセンスを剥奪されかねんぞ」


瑠唯の問い掛けに、不敵な笑みを浮かべる。

「デスゲームの期間のみに女王自らに、許可を出してもらいました。あのゲームは主催者以外ならいくらでも妨害可能ですから」

「確か、女王も主催者側だったと聞いたが」

「彼女の場合、何に配属されたか記憶がないですからね。ですが彼女自身、僕のデータはご存知のようです」

「だったらエントリーをデリートする方法だって…」

「それは彼女自身でも無理でしょう。エントリーしたのは、おそらくこのゲームの総指揮を取る【タナトス】と呼ばれる者。なんと、兄さんの名前は前回もエントリーされてましたからね」

前回は聖に協力する形をとった筈だ。現場にいた瑠唯は釈然としない様子だ。

「おそらく聖先輩は、【願いを1つ叶える】このゲームに乗せられたのではなく、エントリーされてしまった兄さんの生存率が上がるように敢えて、竜王の記憶を取り戻すという口実で参加したのかもしれません」

「じゃあ、輝樹は最初からエントリーされていた。でもそれだったら何故、ごく最近エントリーされたんだ」

「それが分からないから、今調べてるんですよ。それさえ分かればこのゲーム自体を、終わらせることができるかもしれません」

「参加者でもない、ましてや傍観者のお前が!?正気か!?」

頷く奏。瑠唯の知らないところで、前々から計画されたことだ。

「無慈悲な殺し合いは、悲しみの連鎖を生むだけ。だから、エントリーされた時はそれ自体を壊すと、兄さんと約束していた」

この話の筋を追うと、前々から輝樹と奏はデスゲームについて知っていたということになる。

「じゃあ…」

「平和の水面下でデスゲームが行われていることを知ったのは、3年前です。当時の僕にはそれを完全に理解することはできませんでした。しかし兄さんはそれがどういうゲームか即座に理解してしまい、人知れず心を痛めてました。だからこそ、自分がエントリーされたら真っ先にそのゲーム自体を壊しにいくことを心に誓ったのです」

「…じゃあ、自殺に見せ掛けて崖から飛び降りたのは、このためだったって言いたいのか」

「首輪の装置が外されず、死亡判定されなかった以上、それが事実です」

そして、聖と瑠唯の首輪装置だけを解除し、死亡判定させたのは、そのことを悟られないようにすると同時に、逃がすためだったのだ。

「なんで今の今まで黙っていた!!」

怒声と刺すような視線に、冷たさを帯びる奏の瞳。まるで彼女を見透かしたような眼差しをする。

「生真面目で正義感の強い貴女なら真っ先に協力するとおっしゃるでしょう。聖先輩もしかり。だからこそ兄さんと僕は黙っていた。そして兄さんは、僕に現場を行かせないように細工したのです」

【タナトス】が絶対のデスゲーム。そのゲームを廃止させようとするなら、間違いなく自分が無事である保証はできない。それに仲間を巻き込みたくなかった輝樹は、最後の最後まで言えなかったのだ。

「聖先輩はともかく貴女には、危険な目に遭ってほしくなかったのでしょう。兄さんを責めるなら、その思慕を反故にする意味と取りますが?」

苦虫を潰したような顔をする瑠唯。輝樹を生かせるために参加したのに、最終的に生かされたのは彼女なのだ。

「輝樹の想いは無駄にはしない。だが、それはあいつが生きてるからこそ、できる話だろう」

「…僕はもう1人それが可能な人物を見つけました。もし、兄さんに何かあればその人とともに計画を遂行致します」

奏が言うその人物。思い当たるとすれば、彼しかいない。

「まさか、蒼太を使うのか?」

「えぇ。彼のハッカーとしての技術は兄さんとも劣りません。データ収集もなかなかのものです。本当なら貴女と雅先輩は完全に傍観者でいて欲しかった」

「しかし、前みたいな過ちが起これば、そういうわけにはいかない。だから今回、その話をしたわけか」

「えぇ。責めるなら僕にしてくださいね」

「………」

威圧的な眼差しから一転して、物憂げな表情に変わる。ベッドに座り込む彼女は、いつもの凛とした姿ではなかった。

「今更責められないよ。でも、そういうことは真っ先に私に話してほしかった。輝樹が1人で苦しむのは耐えられない」

苦しみなら共有したかった。それが彼女の本音だろう。輝樹自身の気持ちと、瑠唯自身の気持ちにすれ違いを生じたのは、それを言わなかった自分自身にあると今更ながら後悔する奏。

「………必ず、兄さんの居場所を見つけます。今、僕にできる償いはそれだけです」

顔を上げると弱々しく頷く瑠唯。

「…できれば、聖も蒼太の居場所も見つけ出してほしい。頼んだぞ」

「了解」

その後、結局3人の居場所は見つからなかったが夜中の2時で切り上げることにした、瑠唯は自分の部屋に帰る。その後ろ姿を見た奏は、必ず彼らが無事に帰ってくる方法を見つけ出すと心に決めた。












………be continued

 

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