短編

すれ違い、笑顔
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「おはよう、平助」


「おう、おはよう。……あ!おい!千鶴!!」


あたしには一瞬目を合わせただけで、すぐに千鶴ちゃんの方へ向かってしまう。


「…はぁ。」


「沙織君、ちょっと良いかな?」


「あ、山崎さん…。はい、何でしょう?」



話しかけてきたのは山崎さん。


集中しなきゃいけないのに、それを邪魔するのは微かに聞こえるあの2人の喋り声。




すれ違い、笑顔




あたしは、この新選組という組織で監察をやっている。山崎さんの直属の部下だ。


そして、彼―−藤堂平助に恋心を抱いている。



だけど、彼はいつも「千鶴、千鶴」って…。正直に言うと、千鶴ちゃんには嫉妬しっぱなしだ。凄く良い子だし、かわいいし、気配りはできるし、強い子だし…。


あたしなんか…。






「平助君?どうかしたの?ぼーっとしてちゃって…。」


「え!?あ、いや…別に…。」


そう言いながら、再び視線はあの2人に向けられる。


真剣な表情をして何かの紙をじっと見ながら話し合う沙織と山崎君の姿。


てか、顔ちけぇだろ。


「…はぁ……」


無意識のうちに出たため息にはっとする。


こんなことで落ち込んでんじゃねぇよ。いつもの事だろ、と自分に言い聞かせるがちっとも気持ちは晴れない。



いつからかは知らない。いつの間にか、俺は沙織の事が好きになってしまっていた。



でも、自覚した次の日から、毎日毎日俺の中に渦巻く黒い感情。嗚呼、これが嫉妬というものなのかと学習しました。



――‐



「「「かんぱーい」」」



最近、放火事件が増えていた。その犯人を今日捕まえて、その打ち上げに皆で一杯。珍しく土方さんからの許可も下りている。



「…それじゃ、俺はこれで……、」


「え、山崎さんもう戻っちゃうんですか?」


「ああ。書類がまだ残ってるんでね。」


「じゃ、じゃぁわたしも手伝います。」


「いや、 沙織君はまだ飲んでてかまわない。疲れもたまっているだろう。」


「…すいません。」


引き下がった私を見て、山崎さんは微笑みかけて部屋を出て行った。



「……何?山崎君が行っちゃった事がそんなに寂しいの?」


「は、はぁ!!??何言って…!!」



山崎さんが出てった後、平助がおちょこを片手に聞いてきた。



「だってそうじゃん。あきらか。」


「そんな事言ったら平助だって、さっきから千鶴ちゃんが他の人ばっかりにお酒注いでて寂しいんじゃないの?」


「は!?何でそこで千鶴が出てくんだよッ!」


「〜〜!!何でもない!…ちょっと風に当たってくる。」



逃げるようにあたしはこの部屋を出て行った。




「…ふぅ。」


少し火照った体に夜風は丁度良かった。



「……おい、」


「……なによ、」



後ろから声をかけられた。その人物は平助だろう。声で分かったので、振り向かなかった。



「ッ!!ちょッ!何して…!!」


酔いが一気に冷めた。だって、彼が後ろから抱きしめてきたから。



「…好きなんだよ、沙織の事が。」


「え…、」


「…たとえ、沙織が山崎君の事を好きでも、」


「……は?」


ちょ、突っ込みどころが多すぎだろッ!


「ちょ、待って…、何で山崎さん…?」


「……だって、…好きなんだろ?山崎君の事。」


「す、好きじゃないわよッ!」


「え…!?」


「て、てか、それを言うならアンタだって千鶴ちゃんの事好きなんじゃ…!!」


「は!?何で千鶴!?…俺が好きなのは沙織だって今…!」


自分で言って恥ずかしくなったのか、彼は口元に手を当てた。


こっちだって恥ずかしいっての!



「あ、あああたしだって平助の事が好き、だ、よ…」


「え、嘘、マジ!?」


「本当に決まってッ…んッ」


言葉を遮ったのは彼の唇で。


「…ッ…良かった…。絶対山崎君の事好きだと思ってた…。」


「あたしだって…、アンタは千鶴ちゃんの事…」


「ははっ。告白してよかった」


そんな事、笑顔で言われちゃ、こっちの心臓がもたないっつーの。




巡り会い、嬉し涙
(諦めたら試合終了、)
(って、誰かが言ってたな、)








 

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