短編

ちょっと違うあいつ。
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どきどき


どきどき



「ったく。なんだよ、いきなり。」



「わ、わざとじゃないしッ!!誰かに押されて…。」



そう言いながらある事を思い出した。


頭の中で再び流れた『ガチャ』という音。



「…ま、まさかッ!!」



扉まで向かい、開けようとするが…。



「……あ、開かない……。」


「え!?マジ!?」


慌てて藤堂も扉の方にやってきた。力いっぱい開けようとするが、やはり開かない。



「…え、ちょ……。は…?何?…え?……何?この漫画みないな展開…。……はぁぁあああああ!!??」



いつもだったら、この藤堂の叫び声に「うるさい」とつっこむはずなのだが、今はそんな事をしている場合でもなかった。



「ちょッ!だれかー!!おーい!!」


扉をどんどん叩いて助けを呼ぶ藤堂。誰もいないのか、全く気配はない。



「……マジかよ…。」


半ばあきらめたように、6枚ほど重ねられたマットの上に腰を下ろした。



「……どうしよう…。」


力が入らなくなって、彼の隣に座った。


一刻も早く、誰か助けてください。いや、マジで。



――‐


閉じ込められて何時間が経っただろう。いや、もしかしたら何分かもしれない。それほど、此処での時間の流れが遅く感じるのだ。


そして運悪く、今日は体育館での活動の部活は全て休みのよう。ふざけんな。


いくら今の季節が春だからといって、さすがに寒い。制服だったらまだマシだったろう。今の格好は体操服だ。


馬鹿なあたしは上に着るジャージを忘れてしまった。


あぁ。寒い。



「……寒いの…?」


寒さで体が震えてきたあたしに、藤堂が静かに聞いた。



「……いや、…別に。」


「何言ってんだよ。震えてるし、鳥肌たってんじゃん。」


「……だからって、どうにもなんな「ほら。」…え、」



ふわっと優しい香りがしたと同時に、頭に何かが乗っかったと思ったら、それは今までコイツが来ていたジャージで。



「…俺暑がりだし。」


「………ありがとう。」



素直に、お礼を言った。



「……暗くなってきたな。」



暗く…?


暗い…。


真っ暗だ。


体育倉庫に、閉じ込められて、寒くて、不安で、暗くて…、ひとりぼっち…?



「…ッ」



「…?……どうかしたか…?」


あぁ。これがフラッシュバック、というのか。


頭の中に、昔の記憶の一部一部が浮かび上がる。


それは、今と同じような。


いじめられていた時に、閉じ込められたような。



「…ッ…ん"ッ」



何か吐き気がしてきた。胸が苦しくなって、何か詰まったような感覚。誰か、早く来て。



「……おい、…大丈夫か?」


心配したように顔をのぞいてくれた。



「……ん、」


「……気持ち悪いのか…?」


「……だ、いじょうぶ。」


「大丈夫じゃねぇだろ。」



そう言って背中をさすってくれる藤堂。


背中から伝わってくる体温が自分を落ち着かせた。



「…ッはぁ……。」


「体調、良くないのか?」


「…いや、…そうじゃなくて……。…ちょっとね、」


「…ふーん。……ま、無理すんなよ。」


「…」


「……なんだよ、」


「…いや、…何かやけに優しいな、って。……気持ち悪…」


「はぁ!?お前なあ!!人が親切に…!!」



あたしが言った言葉に怒り、背中をさすってくれていた手が止まった。それに少しさびしさを感じながら言葉を返す。



「ごめんごめん。…助かったよ。ありがとう」


「え…、あ…、お、おう。」


行き成りお礼を言ったから驚いたのか、彼はすこしほほを染めてどもる。


ちょっとしたら、また背中をさすってくれた。



うーん。なんだか眠くなってきた。



「…」


「……疲れたんなら寝ても良いぜ?」


「…え、」


「……眠いんだろ?」


「…うん、…でも…、」



コイツの前で寝たら顔に落書きされそうな気がするんだよね…。



「…おい。今失礼なこと考えただろ。」


「……………まさか。」


「その間はなんだ!!」



怒るあいつを余所に、あくびが出る。


「…ほら。眠いんだろ?こんな所に閉じ込められてたら、何もしなくても体力奪われる、ての。」


「…あんたは…?」


「俺は別に。」


「あ、そっか。馬鹿だからか…。」


「ちっげぇよ。」


ではお言葉に甘えて、と思い素直に目を閉じた。




どうやらもう眠ってしまったらしい。


体がカクカクと左右前後に揺れている。


「っ!」


前に大きく傾いて、倒れそうになったところを反射的に抱き寄せた。


わ…。なんか凄い良い匂いする。


って!俺は変態か!!


抱き寄せた時に香るシャンプーの香りに対しノリツッコミをかます。


…すげぇ寂しい。



髪の毛さらさらだし、まつ毛も以外と長い。



な、何かドキドキしてきた…!!駄目だ!まずこの体制がいけないんだ!!



そう思い、マットの上に丁度寝かせた時だった。



ガチャ



「!」


「……え!!??平助!?」


「か、一真!!」



鍵が開いた音がしたと思ったらゆっくりとドアが開いた。そこには仲の良い一真の姿。



「お前、何で…。」


「いやいや。こっちの台詞!こんな所で何してんだよ…って、日向も!?」



頭の中でいろいろな想像を繰り広げている一真にこうなった成り行きを全て話した。


「うわ。大変だったな。……大方、高瀬たちだろうけど。」


「俺も思った…。てか、何でお前…、」


「あぁ。今日部活なかったんだけど、自主練しようと思って。」


自分から話を振った癖に「えらいなー」と一言で話を終わらせ、寝ている日向をおぶる。


「…どうすんの?日向、」


「んー…。…とりあえず保健室。かなり疲れてると思うし。」


「そっか。…手伝う?」


「いや。大丈夫。…てか、マジサンキューな。」


「おう。…じゃ、明日な。」


「ああ。」



――‐



「んッ」


鼻の奥を吐くような匂いで目が覚めた。


真っ白な天井が目に入る。あぁ。保健室か。


…何で?


「あ、起きた…?」


「…とう、どう…」


視界の隅っこでこちらを覗いている藤堂が見えた。



「…あれ…?……保健室…?」


「あぁ。一真が鍵開けてくれた。」


「……服部君が…。」



御礼言わなきゃな。


「俺もう帰るけど、送ってこうか?」


「…ううん。大丈夫。……ありがとう。」


「お、おう。…じゃ、明日な。ゆっくり休めよ。」



「うん。…ばいばい。」



1人になったことにちょっと不安を感じだ。


でも、


「あ、…ジャージ返してない。」



これがあるからちょっと安心。





それはそれで
悪くはない。

(でも、)
(実はこれが本当の君)



――‐



オマケ。会話のみ。

次の日―‐


「おい!高瀬!宮崎!お前ら…!!」


「ま、マジごめんって!!」


「……んであんなことしたんだよ。」


「昼休みの会話聞いて、…」


「…昼休み?」


「日向が、藤堂に、「雪村と付き合ってるのか」ってやつ…」


「…あれがなんだよ、」


「いや、その…。そんなこと聞くってことは、日向は平助の事好きなのかなって思って…。で、悪戯したくなって。」


「…はぁ。」


えんど。








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