短編

もしも、の時
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「あ、あはは」


「『あはは』じゃねぇ!」


「い、痛ッ!た、叩かなくてもいいじゃん!」





もしも、の時






此処は平助の部屋。


慣れない手つきであたしの右腕に薬を塗って包帯を巻く。


医療担当の山崎さんが「俺がやりますよ」と言ってくれたのに平助は断固として譲らない。



そもそも何でこんな事になっているかというと…、

今日、たまたま屯所を訪れて、今平助は巡察中で留守とのこと。


縁側でぼーっとしていたあたしに声をかけたのは原田さんだった。


「今から稽古なんだが、良かったら見に来るか?」との事。


暇だったので彼について行けばそこには面識もある人達が木刀で戦っている。


そして何故かその光景に興奮してきてしまったあたしは、


「あの!あたしもやりたいです」


と、言ってしまった。


馬鹿です。そう、馬鹿なんです。


しょうがないでしょう。馬鹿なんですから。



相手は一般隊士の人。隊長クラスの人と何かやっちゃったら死んじゃうからね。



でも、相手の彼もあまりやりたくなさそう。まぁ女が相手となると気が引けるであろう。



「お、お願いします!」


何か緊張してきた。


そして原田さんの「始めッ!」という声で始まった。


先に一本取った方が勝ち。



結構良い線いってるんじゃね!?と油断した時、


「沙織!お前何してんだよ!」


「平助!?」


バチンッ



「いッ!」


「す、すいませんッ!大丈夫ですか!?」



平助の怒鳴り声が聞こえてそっちに気を取られてしまった時、相手の木刀があたしの右腕に当たった。うわ。木刀って痛いんだね。



すると、平助がすぐさま駆けつけてくれた。


「おいッ!大丈夫か!?」


「だ、大丈夫大丈夫!」


そう言ってさっと右腕を後ろに隠す。


「…おい、手、」


「…だ、いじょうぶだって!」


「…」


「…すいません。」


じっとあたしを見る平助の目に負けてしまい渋々後ろに隠した右腕を彼の前に出す。



「…はぁ」


木刀が当たった部分は赤く腫れていて。それを見て平助がため息を吐いた。



「手当てするから、…俺の部屋来て。」


「あ、手当てでしたら俺がやりますよ。」


すると、その光景を見ていた山崎さんが言った。


「大丈夫だから。俺がやる。」


「…は、はあ」


そのまま引っ張られ平助の部屋に連れてかれた。そして冒頭につながる。



「…お前なぁ、女、って事忘れてない?」


「わ、忘れてないわよ!」


「だったら、あんな事してんじゃねぇよ!」


「だ、だって…、楽しそうだったから…」


「…はぁ」


「そ、そんなため息吐かないでよ!怪我したのはあたしなんだから!いいじゃん」


「そういうことじゃねぇだろ!?」


「…ッ!」


「あーもう!だから!!その…もう!!」


「…な、何よ!」


「俺は、俺が怪我するよりお前が怪我するほうが嫌なの!!」


「なッ!」


顔を真っ赤にして言う平助にこっちまで顔が赤くなる。


「あ、あたしだって、あたしが怪我するより平助が怪我する方が嫌だよ!心配でだし!」


「だったら、俺の言いたい事も分かるよな?」


「…う、うん」


「じゃあ、これからはもうこんなことすんなよ?」


「……うん。」



そう言って彼はあたしの頭の上にポンと手を乗っけて優しく笑う。


あー。なんか恥ずかしい。







俺が傍にいるから
(それだったら、)
(大丈夫だね。)









 

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