短編

捻くれ者と馬鹿な君
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覚束ない足取り。震える手足。


零れ落ちる涙。


此処に来て涙なんて流したのは初めてだ。



“仲間じゃない”


さっきからその言葉だけが頭から離れない。


小さいときから、『仲間』なんて存在はいなくて。仲間が欲しくて、強くなりたくて此処に入った。


だけど、生まれつき持ったこの性格は簡単には変えられなくて、此処に来ても空回りばっかり。それに、一番厄介な『恋』なんてものをしてしまった。


あんなこと言われたら、もう振られたも同然だ。


きっと、藤堂だけじゃない。


皆、あたしの存在そのものが迷惑なんだ。


あたしが、此処にいる意味がなくなったんだ。




その日の夜―‐



「…局長、副長、…日向ですが…、いらっしゃいますか?」


「……入れ。」


――‐



「……日向は、昨日をもって、新選組を辞めた。」


幹部が集まって、少し張りつめた空気の中、土方さんが言った。その言葉に皆目を見開き驚くだけ。言葉が出てこないのだ。



何で?


俺のせいか?俺が昨日、あんなこと言ったから?


「…ひ、土方さん、冗談きついぜ。」


左之さんがそう言うが、土方さんは目線を送るだけ。


「な、んで…。なんで…。何でだよ!?何時!?何で!?俺のせいだろ!?俺が昨日あんな「落ち着け平助。」


新ぱっつぁんの声で、押し黙る。



「……これは本人の意思だ。」



――‐


『…局長、副長、…日向ですが、…いらっしゃいますか?』


「…入れ。」


「…失礼します」



「どうしたんだい?こんな時間に。」



きっと、2人は分かっている。今から私が何を話すのか。それを分かっていて、あえて近藤さんはそう聞いた。



「…本日をもって…、新選組を辞めさせていただきたく思い、ここに来ました。」


そう言って、2人の目をしっかり見れば、彼らは全然驚いた表情をしていなかった。やはり、感づいていたのだろう。


「…理由は…、さっきの平助の事か?」


「……いえ。違います。……薄々感ずいていました。私は、此処にいるべき人間じゃないと。何かの組織に関わるにしろ、大切なのは団結力であります。私が此処にいる限り、新選組の団結力にひびが入るのは明確。…私のせいで、新選組の名に泥を塗るわけにはいきません。」


「……もう、決めた事なのかい?」


「……はい。」


「……別に、辞めたいというやつを無理に引きとめたりはしねぇよ。だけどな、わざわざ辞める必要もないと、俺は思う。」


「…」


「……ま、お前が決めた手段が「辞める」なら、俺は何もいわねぇ。……今まで、ご苦労だったな。」


「日向君がいてくれたおかげで、随分と仕事がはかどった。今までありがとうな。局長として礼を言う。…いつでも戻ってきなさい」


「…ありがとうございました。」


――‐


「…ということだ。…誰も自分を責める必要はねぇ。あいつが自分で決めたんだ。」



「お、俺は認めねぇッ!」


「うるせぇぞ。あいつが決めた事だって言ってんだろ。」


「…ッ」


「……でもさぁ、」


そこで口をはさんだのは総司だった。


「……こっちには、止める権利くらいあるんじゃない?今まで“仲間”だったんだから。…そうでしょ?平助、」


「…ああ。」


「…勝手にしやがれ。」


土方さんがそう言い終わったとほぼ同時にこの部屋を飛び出して彼女のもとへ向かった。



――‐


「沙織!!」


「ッ!…と、どう…」


「ッ!!」


思わず目を見開いた。

いつも男ものの服を着て、長い髪の毛は高い位置で1つに結んでいる。そんな格好しか見たことなかったのに、今の彼女は綺麗な女ものの服を着て、髪の毛はさらさらと背中で揺れていた。


不覚にも、『綺麗』と思った。


「……何か用?」


「え、あ、…その…。新選組、辞めるなよ、」


「………もう、決めたの。」


「で、でも!「私がいても、邪魔なんでしょ?必要ないんでしょ?」


あぁ、視界が歪む。目頭が熱くなってきた。


冷たく言えば、彼はハッとした表情をした。


「……今の状況おかしいと思わない?あたしの事をいらないと、仲間じゃないと言った人が辞めるのを止めてる。……もう分かんないよ。」



止まらない。


「わたし、…わたし…仲間が欲しかった!ずっと仲間が欲しかったの!!知ってるよ、自分がいけない事くらい!だけど、この捻くれた性格、全然治らないんだもん!でも、でもさ…私なりに頑張ってきた!!女なんか捨てて、剣術だって磨いて頑張ってきたの!!それなのに、…仲間じゃないなんて言われたら……此処にいる意味も、分からな…ッ!!」



そこで言葉が途切れたのは、彼に抱きしめられたから。


「ごめん。ごめん。…ほんと、ごめん。」


「ッ…ッズ」


「ごめん。…ごめん。……ごめん。」


ただ泣くだけで、何も言葉を発さない私の耳元で、彼はひたすら謝った。


「……辞めないで。」


「ッ」


途端、彼はそう言った。


「…好き、なんだ……」


その言葉の意味が、すぐに理解できなくて。理解できた時、つい反発で彼の腕から逃れようとしたが、彼はそれを許さなかった。


「……な、んで…?」


「……沙織が、辞めるって聞いて、昨日言った事を後悔とか、そういう問題じゃなかった。ただ、沙織が俺の前からいなくなっちゃう事が凄く、…凄く怖かった。」


「…………仲間、って…呼んでくれるの?」


「…違うよ、」


そこで、初めて彼は腕の力を緩め、私としっかり目を合わせた。


「すっげぇ、愛しい人!!」


「ッ!…わ、わたしも…好きッ!平助ッ!」



自分から、抱きしめた。





惹かれあう者は
正反対の者同士か
全く同じもの同士

(そんなコトバを、)
(誰かが言ってた気がした)







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