違う形で出会っていたら?
1ページ/1ページ


「ねぇ、」

「…」


「ねぇ、」


「…」


「聞いてんの?」


「…」


「……あ、藤堂平助だ、」


「え!?嘘!何処何処何処!!??」


「何があった?全部吐け。」


「…」





違う形で出会っていたら?





「へぇ。良かったじゃない。大好きな彼と話せて。」


昨日会った事を話せば、咲は楽しそうな遊びを見つけた小学生のような表情で言った。


「うん!ほんっと、もうカッコよすぎなの!!」


「はいはい。良かったわねぇ。…にしても、最近よく聞く噂あるのよね、」


「…噂?……何の?」


彼女は中々の情報通だ。そんな彼女が気になる話題。あたしもちょっと興味がわいた。



「…聞かない方がいいかもだけど、」


「え、何?気になる!言って言って!!」


「藤堂平助が、…その…雪村千鶴?って子と…」


咲の言葉に頭の中に雪村さんの昨日の笑顔が浮かんだ。2人の噂?…何だろう。


「付き合ってる、って噂。」


「…え、」


頭が真っ白になる、てこの事だ。何かで頭を殴られて、強い衝撃を受けた感じ。


付き合ってる?


誰が?


平助君が?


誰と?


雪村さんと?


…うそ、…でしょ…?


「おーい。もどってこーい。…聞かない方がいい、って言ったでしょ?」


「……ごめん。」


「……ま、あくまでも噂だからさ。ね?」


「…うん。…そうだよね。」






「……めんどくさー」


宿題だった数学のプリントの存在を見事に忘れていた私。居残りとして宿題として出されていたプリントの倍の数をやらされている。


「あーもう!!わっかんない!!!」



と、叫んだ時だった。


ガラッと大きな音を立て、勢いよく教室のドアが開いた。


「…あ、れ?」


そこにいたのは、


「…!」

「あれ。教室間違えた…?」


藤堂平助君だった。


様子を見れば、少し困惑しているよう。言葉を聞く限り、自分の教室を間違えてしまったらしい。まあ隣の教室だし。やたらクラス多いしね。



「あ、昨日図書室にいた…。えーっと…。ごめん…。名前……。」

「あ!はい!日向沙織で、っす!!す、すいません!!」

勢い余って声が裏返ってしまた。はっずかしいいいいいい!!!うおおおお!!穴があったら入りたい!!


「ははっ。何でそんなガチガチなの」

何て言って笑う彼。そりゃ貴方が相手だったらガチガチになるに決まってるでしょーが!!!

「え、あ、いや…。」


「てか、何してんだ?」



へ、平助君が私に近づいてくる!!え!?嘘!?うわああああ!!

て、てか、居残りさせられてるなんて、恥ずかしくて言えないよおおおお!!


「数学プリント?」

「…は、はい…。その…。宿題忘れて、…やらされてます…。」


はっずかしいいい!!


「あ!!俺もだ!!」

「え、」

「すっかり忘れてた!!ちょ、一緒にやっていい!?」

「え…?」

「え、あ…駄目?」

「い、いえ!!ぜんっぜん!むしろ一緒にやってください!!!」

「んじゃプリント取りに行ってくるわ!!」


よしゃああああああ!!うわあああ!!もう数学大好きッ!!





「そう言えば、何で敬語?」

「え、あ、いや…。特に意味は…。」

「だったら普通にタメで良いじゃん!同い年なんだし!そう言えば、俺自己紹介まだだったな!藤堂平助!よろしくな!」


知ってます。もうほんと知ってます。ガチ知ってます。


「よ、よろしく。藤堂君。」

「平助で良いって!名字で呼ばれるの嫌いなんだ。俺も沙織って呼ぶな!!」


あ、幸せすぎて死ねるわ。


「…あ、そうだ。千鶴に先帰っといて、ってメールしとこ。」


思い出したように言い、ポケットからケータイを取り出した。カチカチと音が響く。


そんなメールするってことは、やっぱり付き合ってるのかな…?


「あ、あの!」

「ん?」


携帯をカチカチと操作しながら、あたしの言葉に返事だけで返す平助君。


「…ゆ、雪村さんと、つ、つつ付き合ってるんですか!?」

「え?」


思ってたよりも、ずっと大きな声で言ってしまった。内容もないようなので、平助君は少しビックリした表情で携帯から目を離しあたしの方を向いた。


目が、バッチリと合い、心臓が大きく跳ねた。


「千鶴の事?」

「はい!」

「付き合ってないよ。」


ケロっと当たり前のように答える平助君。え、あれ。違うの?


「え、そ、そうなんですか!?」

「おう。千鶴とは幼馴染で、家も隣だから一緒に帰ったり、良くしゃべったりしてるだけだし。ただそんだけ。」

「そ、そうなんですか…」


よかった。本当に良かった。よかった。一安心しているあたしに、平助君は「てかさ!」と声をかけた。


「敬語、駄目だって言ったろ?」


と、笑顔で言った。


「う、うん!」


少し、泣きそうになった。


あたしは、彼の事をもうずっと前から知っている。彼が、あたしの事を知ったのは、つい昨日の話し。名前を知ったのは、ついさっきの話し。


もしも、あたしが“ファン”何かじゃなくて、雪村さんみたいな位置に居たら、もっとふざけあった会話とか、出来たのかな?


“廊下ですれ違った”ってのが出会いじゃなかったら…。



今だけは、自分の運命を呪った。





しっかり思いを
告げられていた?

(好き、)
(大好きなんだよ、)







 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]