ある夏の日
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今から、2年前の話だ。



総司と歩いていると、ふと向こう側の歩道を歩いてる浴衣姿のカップルが目に入った。




「なぁなぁ総司ぃ。どっかでお祭りあんのかな?」



「あー、そういえば一君が隣町であるっていってたよ」



隣を歩く総司に聞けばそう答えた。一君が言ってた、って何か以外。



「マジで!?行こうぜ、祭り!!俺金魚すくいやりてぇんだよ!」



お祭りがある、って聞いた瞬間俺の頭の中にはたくさんの屋台が浮かんだ。その中でも大きく浮かんできたのが金魚すくい。金魚すくいだったら誰にも負けない!



「別に良いけど…。好きだよね、金魚すくい。」



「ああ。屋台の中で一番好きなんだ!」



総司に笑顔を向ければ、すれ違う女の子の姿が目に入った。ソーダのアイス…。



「なあ総司、コンビニよっていい?」





PART,4 ある夏の日







「いやー、やっぱり祭りってテンションあがるな!」



結局総司と2人で来ることに。そう言葉を振れば「…そうだね。」と、あまり乗り気でもない様子。


そんな奴は放置して周りを見渡し、目に付いたのは金魚すくい。



「総司!金魚すくいやっていいか!?」



自分から聞いたくせに、相手の返事もまたないで、そちらに向かう。




300円払って、ボールとポイをもらった。


さぁ、どいつから狙おうか、と周りを見渡した時、隣で金魚すくいをやっているだいたい俺と同い年くらいの女の子のボールに目がいった。結構な数をとっている。何か悔しいな…。



ちょっとしたライバル心を抱いて金魚すくいに集中した。



「おりゃッ!!!」


狙っていた大きな出目金を捕まえた。よっしゃ!と心の中で小さなガッツポーズをとっていると何やら視線を感じる。


横を見てみるとさっきの女の子がこちらを見ている。そして…、



バチッ




火花が散った。



いや、実際散ってないんだけど。俺には見えた。それはこの女の子も同じようで…。





「「咲/総司、ちょっと鞄持ってて」」




本気になった俺たちは、それぞれ邪魔なものは友達に預け、もっと意識を集中させた。




いざ、参るぅうううう!!!



―-‐




「お、お二人さん、もうそのポイじゃ無理だ。」




あれから15分くらいたっただろう。お互い、もう2本目のポイに入っていて、もう替えがない。そしてその2本目のポイももうぼろぼろだ。使い物にならない。それでもあきらめない俺たちは、もうお店からしたら邪魔な存在でしかない。





「もうあきらめなさい。リンゴ飴おごってあげるから。」




「君もだよ。たこ焼きおごってあげるから。」



総司にたこ焼きをおごってもらえるなら…。



しぶしぶポイを返し、ボールの中に入っている金魚を数える。49匹か…。去年より少ないな…。


それより、彼女が何匹だったかが気になる。チラっと向こうを見てみれば彼女も知りたそうにちょっとそわそわしている。でも話しかける勇気がないそうで…



「ね、ねぇ。…何匹だった?」


俺から話しかけた。


「………48匹。」


よっしゃ勝ったぁぁあああ!!!



何かしんないけど、めちゃくちゃうれしくて。一応表には出さない予定だったが出てしまってるようで、上目線で「ふぅ〜ん」といった俺が気に食わないらしく彼女は眉をぴくッと動かした。


すると、無愛想に「そっちは?」と聞いてきたので、


「49匹。」と得意げに言ってやった。



「て、てか!あたし一回貴方に邪魔されたの。それ入れたらあなたと同点よ!!」



何を言い出すかと思えば…。負けは負けなんだから認めろよ。



「はぁ!?何それ、ただの負け惜しみじゃん。結果は結果。」



「本当のことよ!!」



「……じゃあ良いよ。今回は同点で。」


うわ。俺って心広い。


「…今回?」



「おう。…来年。…また来年、勝負しようぜ」


違う。



俺は心なんて広くない。



彼女ともう一度勝負する約束をしてしまったのは、彼女が負けを認めないからではない。



約束をしてしまった理由は、また勝負したかったってのもあるが、ただたんに俺が、



「いいわよ。来年ね。約束よ。またここの屋台で。」



「おう。」



また会いたかっただけなのだから。



そう言って、別れた。



名前も何も聞かずに。








次の年の夏―--



俺は行かなかった。





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