ある夏の日
1ページ/1ページ





今から、約2年前のこと。



「ッ…熱。」



ソーダ味のアイスは、もう溶け出していて。



ふと、反対側の歩道を歩いてる浴衣姿のカップルが目に入った。




「…どっかでお祭あるのかな?」



そうだったら、友達でも誘っていこうかな。




「なぁなぁ総司ぃ。どっかでお祭りあんのかな?」



「あー、そういえば一君が隣町であるっていってたよ」



「マジで!?行こうぜ、祭り!!俺金魚すくいやりてぇんだよ!」




すれ違った同い年くらいの男の人も、あたしと同じ意見のよう。




「別に良いけど…。好きだよね、金魚すくい。」



「ああ。屋台の中で一番好きなんだ!」



お、あたしと一緒。


もしかしたら、会うかもなぁ。








「へぇー、結構出てるね、」



親友の咲と一緒にお祭にいくことになって、隣町のお祭はあんまり大きいものとは聞いてなかったので、どんなものかと見てみれば、結構な数の屋台も出ていて、お祭り好きのあたしは結構テンションが上がった。




「ね!!…あっ!金魚すくいやっていい!?」



「いーよ。」





金魚すくいが得意なあたし。お祭りがあるときは必ず寄るこの屋台。



おじさんに300円払って、その代わりに小さなボールとポイをもらう。




よしやるぞ、と気合を込めて袖をまくった。







「へぇ、沙織金魚すくい得意なんだ。すごいじゃん」



「へへッまぁね。」



咲に褒められ少し気分が良くなりそれからもどんどんすくっていく。



水面近くでじっとしている金魚を見つけたあたしはソイツに狙いを定めた。そっとポイを近づけ、今だ、と思いすくおうとしたその時、





「おりゃッ!!!」




という声が聞こえた途端、水槽の水がゆれ、狙っていた金魚はどこかに姿を消した。




誰だ、邪魔した奴は、と目を声がした方に向ければ、そこにはさっきすれ違った男の人がいた。




あ、やっぱり会った。



ふと、彼のボールの中に目が行った。その中には結構な数の金魚。あたしと同じくらい。




悔しい。



名前も、年齢も知らない、しかも今日初めて会った彼に勝手にライバル心を抱いた。何なんだあたしは。




じっと彼の方を見ていれば視線に気付いたのか、こちらを向いた、目が会った際、




バチッ




火花が散った。



いや、実際散ってないけど、あたしには確かに見えた。それは彼も同じようで。




「「咲/総司、ちょっと鞄持ってて」」




本気になったあたしたち。それぞれ邪魔なものは友達に預け、ちょっと下がってきた袖を、さっきより上にまくりあげた。




いざ、出陣じゃぁぁあああ!!!!!




―-‐





「お、お二人さん、もうそのポイじゃ無理だ。」




あれから15分が経過。お互い、もう2本目のポイに入っていて、もう替えがない。そしてその2本目のポイももうぼろぼろだ。使い物にならない。それでもあきらめないあたしたちは、もうお店からしたら邪魔な存在でしかない。





「もうあきらめなさい。リンゴ飴おごってあげるから。」




「君もだよ。たこ焼きおごってあげるから。」





咲から言われ、しぶしぶやめた。ボールの中の金魚を数えれば、48匹。



ちらっと彼の方に目を向ければ数え終わった様子。



気になったが、別に知り合いでもなければ「勝負しよう」といったわけでもない。



聞こうかな、と迷っていたとき向こうから声をかけてきた。




「ね、ねぇ。…何匹だった?」




「………48匹。」



「ふぅ〜ん」



数を言った途端、余裕そうな表情でちょっと笑った。それにちょっとイラッとして「そっちは?」と、ちょっと無愛想に聞いた。




「49匹。」





得意げに言うこの人に余計腹が立った。




「て、てか!あたし一回貴方に邪魔されたの。それ入れたらあなたと同点よ!!」



「はぁ!?何それ、ただの負け惜しみじゃん。結果は結果。」



「本当のことよ!!」



「……じゃあ良いよ。今回は同点で。」



「…今回?」



「おう。…来年。…また来年、勝負しようぜ」




さっきの憎たらしい笑顔とは違って、自信満々な笑顔で言ってきた。





「いいわよ。来年ね。約束よ。またここの屋台で。」




「おう。」






そう言って、別れた。



名前も何も聞かずに。







次の年の夏―--



彼は来なかった。






金魚すくい






PART,1 ある夏の日




―--


始めちゃいました。






 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]