鈴の音と下駄の足音
□初仕事
2ページ/3ページ
「あ、あの…、あたしは何をしていれば…」
「あちきがお客様の相手になりんす。沙織さんはお酒を注いでやっておくんなんし。」
「は、はい…」
お酒を注ぐまでの距離にならなきゃいけないのか…。
清華さんに男嫌いの事を言う予定はない。こんなにも良くしてもらってるのに、ここにきてそんな我儘は言ってられない。…が…。
あたしの体がもつか、の問題だ…。
「…皆さん、お待たせしはりました」
そう言いながら襖を開ける清華さん。中には鼻の下を伸ばした男5人が居る。うえッ。
…生きていけるだろうか。
――‐
「……はぁ…」
「そんな落ち込むなって、平助。」
沙織が屯所から居なくなって、さっきからこんな調子の俺に左之さんは励ましの言葉を掛ける。
「……俺、何にもしてやれなかった。」
「何でお前がんな責任感じてんだよ。お前はこれっぽッちも悪くねぇ。そのうちひょこっと戻ってくるって!」
…戻ってきたら今度こそ殺されちゃうかもしれない、なんて思ってる俺。
だけど、戻ってきてほしくて。
――‐
「おい!そこの娘、酒をくれぇ!」
「……はい。」
もう完璧に出来上がってるこの男。気持ち悪いなぁもう。
そんな男に近づきお酒を注ぐ。
「ん?ははッ。お前さんもなかなかの別嬪じゃのぉ!!もっとちこう寄れ!」
「あ、あはは。」
そんな事を言われても一ミリも近づかない。近づいてたまるか。苦笑いで流すだけ。
「お前、ワシの嫁になれば良い人生がまっとるけぇ!!新選組を滅ぼした男として名が刻まれるのじゃ!!」
「え…、」
今なんつった?このクソおやじ。
「ほっほ。ワシに興味が持てたか?」
もってねぇよ。
「お前さんにだけじゃぞ?近々ワシらで新選組を潰しに行くのじゃ。京の街を好き勝手にしよって、奴ら。ワシらの強さに跪くのじゃぁ!!あっはっはっは。」
何言ってんだ?このクソおやじ。
こんな奴らに、あの新選組が潰せるわけない。これでも歴史は得意な方だ。
…だが、もしもの場合は…。
って。何考えてんの。あんな奴ら死んだってあたしには関係…、…ない、よ…ね。
――‐
沙織が姿を消してから3日が経った。
…やっぱり帰ってきてくれないのか……。
って。俺は何でこんなにもあいつの事を気に掛けてるんだよ。
「藤堂隊長!」
「ん?どうした?」
「先ほど、門の前で不審な女がいまして…、」
「え、…」
「そいつがこれを…。」
その隊員が渡してきたのは一枚の手紙だ。
――‐
護衛増し、
弐、参日、用心すべし。
幸運祈る。
――‐
「…んだこりゃ。」
手紙を土方さんに渡した。今この部屋には幹部の皆が集まっている。
「…その女って、どんな子だった?」
すると、手紙を受けとった隊員に総司が聞いた。
「はい。…顔は布を被っていて分かりませんが、声を聞く限り若い女子だったと思います。」
「……沙織…?」
「…その女が日向だと言いてぇのか?藤堂、」
「…うん。……確信はないけど、そんな気がするんだ。」
「…だが何のためにだ?沙織は此処が嫌で出て行ったんだろ?此処を助ける義理もねぇってことだ。」
と、左之さんが言った言葉にその場の人たちは頷く。俺だってそう思う。だけど、この手紙を書いた人は沙織以外に思いつかないん。
「……だけど、この手紙の言うと通りにしても、損はないと思うけどね。」
こんな状況でも笑顔でいる総司。その言葉に土方さんは少し考えた後、「そうだな、」と言葉を漏らした。