鈴の音と下駄の足音

□初仕事
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「あ、あの…、あたしは何をしていれば…」


「あちきがお客様の相手になりんす。沙織さんはお酒を注いでやっておくんなんし。」


「は、はい…」


お酒を注ぐまでの距離にならなきゃいけないのか…。


清華さんに男嫌いの事を言う予定はない。こんなにも良くしてもらってるのに、ここにきてそんな我儘は言ってられない。…が…。

あたしの体がもつか、の問題だ…。


「…皆さん、お待たせしはりました」


そう言いながら襖を開ける清華さん。中には鼻の下を伸ばした男5人が居る。うえッ。


…生きていけるだろうか。


――‐


「……はぁ…」


「そんな落ち込むなって、平助。」


沙織が屯所から居なくなって、さっきからこんな調子の俺に左之さんは励ましの言葉を掛ける。



「……俺、何にもしてやれなかった。」


「何でお前がんな責任感じてんだよ。お前はこれっぽッちも悪くねぇ。そのうちひょこっと戻ってくるって!」



…戻ってきたら今度こそ殺されちゃうかもしれない、なんて思ってる俺。


だけど、戻ってきてほしくて。



――‐


「おい!そこの娘、酒をくれぇ!」


「……はい。」



もう完璧に出来上がってるこの男。気持ち悪いなぁもう。


そんな男に近づきお酒を注ぐ。


「ん?ははッ。お前さんもなかなかの別嬪じゃのぉ!!もっとちこう寄れ!」


「あ、あはは。」


そんな事を言われても一ミリも近づかない。近づいてたまるか。苦笑いで流すだけ。



「お前、ワシの嫁になれば良い人生がまっとるけぇ!!新選組を滅ぼした男として名が刻まれるのじゃ!!」



「え…、」



今なんつった?このクソおやじ。


「ほっほ。ワシに興味が持てたか?」


もってねぇよ。



「お前さんにだけじゃぞ?近々ワシらで新選組を潰しに行くのじゃ。京の街を好き勝手にしよって、奴ら。ワシらの強さに跪くのじゃぁ!!あっはっはっは。」



何言ってんだ?このクソおやじ。


こんな奴らに、あの新選組が潰せるわけない。これでも歴史は得意な方だ。


…だが、もしもの場合は…。


って。何考えてんの。あんな奴ら死んだってあたしには関係…、…ない、よ…ね。



――‐



沙織が姿を消してから3日が経った。


…やっぱり帰ってきてくれないのか……。



って。俺は何でこんなにもあいつの事を気に掛けてるんだよ。




「藤堂隊長!」


「ん?どうした?」


「先ほど、門の前で不審な女がいまして…、」


「え、…」


「そいつがこれを…。」


その隊員が渡してきたのは一枚の手紙だ。


――‐


護衛増し、

弐、参日、用心すべし。

幸運祈る。


――‐



「…んだこりゃ。」



手紙を土方さんに渡した。今この部屋には幹部の皆が集まっている。


「…その女って、どんな子だった?」


すると、手紙を受けとった隊員に総司が聞いた。


「はい。…顔は布を被っていて分かりませんが、声を聞く限り若い女子だったと思います。」



「……沙織…?」


「…その女が日向だと言いてぇのか?藤堂、」


「…うん。……確信はないけど、そんな気がするんだ。」


「…だが何のためにだ?沙織は此処が嫌で出て行ったんだろ?此処を助ける義理もねぇってことだ。」



と、左之さんが言った言葉にその場の人たちは頷く。俺だってそう思う。だけど、この手紙を書いた人は沙織以外に思いつかないん。



「……だけど、この手紙の言うと通りにしても、損はないと思うけどね。」



こんな状況でも笑顔でいる総司。その言葉に土方さんは少し考えた後、「そうだな、」と言葉を漏らした。




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