鈴の音と下駄の足音

あっちこっち
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不安定だわ。




part7 あっちこっち




まだ一向に男嫌いが治らない日向沙織です。


えー、藤堂さんの小姓、というものになって1週間が経ちました。


結構仕事には慣れてきた。完璧パシリだ、これ。



「……起きてください。」


「スー、スー」


「………起きてください。」


「スー、スー」


「…はぁ。もういいや」



釣り目野郎に起こしてこい、と言われたので、少しの距離を保って声をかける。だが一向に起きる気配はない。


絶対に揺すりはしない。触れたら死ぬから。




起きる気配はないから、もう部屋を出ようと立ち上がった時、



パシッ




「ッ!!!」



毛が逆立つのが分かった。一気に鳥肌が立つ。


寝ボケてあたしの手首をつかむ藤堂さん。


「ッや、…ちょッ!…離してください!!」


精一杯引っ張るが、寝ボケてやる彼にも力はかなわなかった。



「ん、…」



彼が声を漏らした次の瞬間引っ張られた。


そのまま布団に倒れこむ。目の前には彼の顔。腕はまだがっちりとつかまれていて。


い、や…。



手が震える。



「は、なして…。離してッ!」



そう言って、空いている方の手で彼を押せば…、



「ん?……って、沙織!?こんな所で何して…、え、ちょ、…えぇ!?」


「…ッ!!」



うっすらと目を開け、視界にあたしが入ったからか、彼は一気に目を開けた。状況が分からない彼は必死に頭を整理しようとしている。だけど、涙目のあたしを見てか、彼はもっと焦りだした。



何も言わず、彼をひと睨みして部屋を出た。




――‐




駄目だ。やっぱり此処には居られない。



悪いが、男嫌いは治りそうにない。



またあんな目にあったら?


それこそこっちの体が持たない。



「………に、げなきゃ。」



今だ震える手をぎゅっと握り、そう呟いた。




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