鈴の音と下駄の足音

2度目の一歩
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あれからというもの、あたしは新選組に再び住まわせてもらっている。


どうやら藤堂さんが話を付けていてくれたらしい。他の皆さんも、前と同じように接してくれている。


「んじゃ、巡察いってくるな!」

「あ、…はい。…お気をつけて。」

「おう!!」


揺れる髪の毛と、浅黄色。






part12 2度目の一歩






男嫌いが治ったわけじゃない。でも、前よりはかなり話せるようになった。


前と変わらず、あたしは今も藤堂さんの小姓



リン リン

カラン カラン


「…」


リン リン

カラン カラン


最近、よく聞こえるこの音。あたしが此処にやってくる寸前に聞こえた音だ。


この音のせいで私はここにやってきた、って言うのは、ちょっと変だがこの音が関わっているのは間違いない。


出来れば、今すぐにでも前の世界に戻りたい。


何か、手掛かりを探さなくてはいけない。





今は買いだし中。釣り目…じゃなかった…土方さんもなんだかんだで信用はしてくれているようで、時々こうやって外に出してくれる。


最低限の食料を買って今は屯所に帰る予定。


もう日が落ち始めている。京が赤く染まる。


「………綺麗…。」


きっと、こんなきれいな景色、元の世界では見れないだろう。


「うわあっ!」


焦ったような声が聞こえた。それは後ろから聞こえる。振り向けば、そこには1人の男の子が倒れていた。だいたい5歳くらい。その子はすぐに起き上がり、そして、



「い、痛いよー!!うわーん!!」


泣きだした。


男の子の膝からは血がだらだらと流れている。


すぐに、男の子に駆け寄った。



「だ、大丈夫!?」

「痛いよー!」

「え、ど、どうしよう…」



駆け寄ったはいいが、あたしには何もできない。絆創膏なんて持ってないし、この時代に薬局なんてない。だいたい、この時代の人は怪我をしたらどうやって対処してたんだ!?

なんとも格好悪い。助けるために駆け寄ったのに何もできないとは。泣きやまない男の子の前であたふたしていれば…。


「男が泣くんじゃねえぞ」


優しい声が、聞こえた。それは男の物。


振り向けば、そこには薄緑の着物を着、腰には一本の刀。この時代では珍しいと思われる短髪の髪型。整った顔。


「…う、そ……」


その男は、あたしの横を通り過ぎ、今だ泣いている男の子と目線を合わすように、しゃがんだ。


「うっ。ふえっ…」

「ほら、泣くな!男だろ!」

「い、いたい…よぉ」

「痛くねえ!」

「いたいよー!!」


再び、男の子は声をあげて泣き出した。子供に対してそんな無理矢理…。


「ったく。しょーがねぇな」


小さくため息をついて、彼は懐から何かを取り出した。


白い布と、半紙のようなものに包まれた何か。


まず、白い布で男の子の足に出来た傷の上から足を縛った。もしかして、これがこっちでの絆創膏変わり?


「お前、兄弟いるか?」

「い、いもうと、がいる」

「兄貴なんだろ?お前がこんなんで泣いてたら妹守れねえじゃねえか。でっかくなったら、今度は母ちゃんも父ちゃんも祖母ちゃんも祖父ちゃんも守んなきゃいけねえんだぞ?」

「…」

「男はな、強く生きなきゃいけねえんだ。涙見せて良いのは、家族が死んだときだけだ。それ以外はぜってえ泣いちゃならねえ。いいな?」

「う、うん…!」

「よーし!えらいぞ!そんじゃこれやるよ!」


そう言って、彼は半紙のような紙に包まれた何かを男の子に渡した。男の子は不思議に思いながらもそっとその紙を開ける。中身を見た瞬間、男の子の目はキラキラと輝いた。


「金平糖だあ!」

「好きか?金平糖!」

「大好き!」

「俺もだ!妹にもちゃんと分けてやれよ!」

「うん!ありがとう!お兄ちゃん!」


最後は、笑顔で、足の痛みなんかも忘れて、男の子は走って行った。


男の人はくるっと振り向き、あたしと目を合わせた。



「っ!」

「何か無理矢理はいっちまって悪かったな」



無邪気な笑顔で笑う彼。



「い、いえ…。では、急いでるんで。失礼します…。」

「ちょっ、おい!」

「………何でしょうか?」

「……前に、どっかで会った事…あるか?」

「……すいません。分かりません。」

「だよな!わりいな、なんか変な事聞いちまって。俺、久島渉也(くしま しょうや)ってんだ!皆からは渉さんって呼ばれてんだ!よろしくな!」

「…はあ。…では、…ほ、本当に急いでんで。」

「ああ。悪いな!すぐそこでお茶屋やってっから、何時でも来いよな!じゃあな!」

「……さよなら。」





ありえない。ありえない。何で?


「沙織!遅かったな!心配したぞ」

「す、すいません。すぐに夕食の準備します」


屯所に付けば、門の前には藤堂さんの姿。どうやらあたしを待っていてくれたよう。

悪いことしたな、と思ったのも一瞬で、すぐに頭の中はさっきの人の事で埋め尽くされる。


何で?何で?その言葉しか出てこない。


「……何かあったか?」

「え…?」

「あ、いや…何か…ちょっと様子変だな、って思って。」

「そ、そうですか?」

「…何かあったら、言えよな!」

「……ありがとうございます。」


彼から逃げるように、部屋に入った。


「…な、んで…?」


足も手も、体も心臓も、何もかもが震える。



恐怖で。



『な、んで…ッ…こんな、事…』

『うっせーな。泣いてんじゃねえようぜえ』

『…ッ…さい、てい…ッ!』

『あー、もう。マジお前めんどくせえ』


「ッ…!」


また、思い出してしまった。


それもそうだろう。


さっき会った人と、憎くて憎くてたまらない最低なアイツが、重なった。


「…似すぎ、…だよっ…」







一緒に踏み出そう
(せーのっ)







 

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