鈴の音と下駄の足音

偽りの中の本音
1ページ/1ページ





肉を切る嫌な音。


赤黒い液体が宙を舞う。


あたし、…やっと死ねるんだ。


はは。死ねる事がうれしいなんて、あたしも腐ったな。


遠のく意識の中で、また知ってる人の声が聞こえた。



part11 偽りの中の本音




リンリン


カラン カラン


「ん…」


リンリン


カラン カラン


久しぶりに聞くこの音。


頭の中で綺麗に響いていた。


ぼやける視界。だんだんはっきりしてくるそれは、ちょっと見慣れたものだった。


少し古びた天井。


知ってる。確かにあたしの記憶の中に残ってる。



「沙織!!目さめたんだな!!」


「え…、」


視界の隅には藤堂さんがいた。



は?


何?


意味が分からない。


あたし、死んだんじゃなかったの?


「え、ちょ…」


起き上がろうとした時、腹部に鋭い痛みを感じ再び布団に体を預けた。


「まだ起きちゃだめだって!お前4日も眠ってたんだぜ?」


「……4日も…。」


って!そうじゃなくて!


「あ、あたし……死んだんじゃなかった…んですか?」


「死んでねーよ!ちゃんと生きてるって!!お前の事切った辻斬り、丁度俺達追っててさ、切られたお前急いで屯所まで運んで、何とか一命取り留めた、ってところ。」



なーに言ってんだよ。何て笑顔で言う彼に沸々と怒りがこみ上げた。


「……ふ、ざけんな…。」


「え?何?」


「……ふざけんな!!」

腹部の痛さなんかも忘れて、彼に掴みかかった。

男嫌いの事を忘れて、自分から掴みかかるほど、あたしは今、自分を見失っていた。


至近距離でぶつかる彼の瞳は、真っ直ぐあたしを見ていた。


「ふざけんな!ふざけんな!!やっと死ねると思ったのに!!そうやってまたアンタは邪魔するッ!!もうこれ以上、あたしを苦しめないでよッ!!!」


「…」


何も言わないくせに、じっと目をそらさず見てくるこいつに、殺意さえ覚えてくる。


ムカつく。ホントむかつく!!!


「……殺して。」


そうつぶやいた事で、彼の瞳が大きく揺れた。


「お、まえ…何言って…。」


「殺してよッ!!」


涙が出てきた。


「もう、生きてるのも辛いの!!自分の存在価値も、何にも分からないッ!!」


「ふざけんなはこっちの台詞だ!!自分の存在を拒否しようとしてるやつが存在価値なんて分かるわけねぇだろ!?」


「ッ」


悔しい。悔しい。


何故悔しいのか、それは分かる。


「逃げてんじゃねぇよ…。死ぬ事で楽になるなんて、卑怯な手つかってんじゃねぇよ!!」


彼が言っている事が正論だから。


「……お前、…島原はどうした?」


「…うるさいッ…!」


「………追い出されたのか?」


「うるさいうるさいうるさい!!!」


涙がどんどん流れてくる。


次の瞬間、目の前が真っ暗になった。


「…え、」


驚きで涙も止まった。


「……大丈夫だから。」


「ッ!」


彼に抱きしめられている、と言う事に気付くのに少し時間がかかった。


いつものあたしなら容赦なく突き飛ばしていたけど、それができないのは彼の腕の中があまりにも心地よくて、安心できたから。



「ふっ……うえっ…ッ」


再び涙が止めどなく溢れてきた。



「辛かったよな。怖かったよな。…本当は、生きたいんだよな。」


何で、彼はあたしをこんなにも分かってくれようとするのだろう。


元いた世界では、あたしが突き放せばもう絶対に寄ってこなかった。それどころか変な噂を流したり、くだらないことばっかりやっている人達だけだった。


だけど、彼は違う。


どんなに突き放しても、諦めない。


「…沙織の存在価値なんて、俺がいくらでも言ってやる。生きるための希望だって、俺が見つけてやるから…。だから…」




死にたいなんて言わないで。




その声は、震えていた。


「……ご、めんな、…さい…。」


途切れ途切れに謝れば、彼は優しく頭をなでてくれた。


その後、泣きたいだけ泣いて彼にすがりついていた。




「……沙織?」


泣き声がやんだと思い、名前を呼んでも反応がない。


「え!?沙織!?」


最悪の状況が頭に浮かんで、顔を見てみれば、


「…寝てる……?」


すやすやと眠っていた。


「……よかった。」


一気に力が抜け、再び沙織を布団に寝かせた。


頬に残っている涙の後。真っ赤にはれた目を見れば、どれだけ泣いたのかすぐにわかる。


こんなにも、彼女はいっぱいいっぱいだったんだ。


俺が支えてやらなきゃ。



「…平助、入るぞ。」


俺の返事も待たないで、勝手に入ってきた人は、予想していた通り土方さんだった。


「…沙織、目覚ましたよ。今はまた寝てるけど。」


そう言えば、土方さんは眠っている沙織に目線を移した。土方さんも、沙織が泣いていた、って分かったのか、少し眉間にしわを寄せた。


「…………土方さん、」


「……何だ。」


「…お願い!!沙織を、もう一度此処に住まわせてやってくれ!!きっと、今の沙織なら、此処の環境にも付いていけると思うんだ!そうでなくても、もう沙織には行く場所がない!だから「平助!」


土方さんの言葉にはっとして、土方さんを見た。そっか…。そうだよね…。一回抜け出した人をまた住まわせるなんてむり「だからお前は馬鹿なんだ。」


「…へ?」


行き成り何言い出すんだ!


今そんなん関係ねぇじゃんか!!


「……俺は、お前ら幹部に何て言った?」


「……何か言ったっけ?」


「…はぁ。」


土方さんが言うことなんて、お説教くらいしか思い浮かばなかった。それでなくても、土方さんの話は毎日のように聞くし、どれの事を言っているのかさっぱりだ。



「……この女が抜け出した時、俺はお前らに言ったはずだぜ?」


「え?」


「……巡察中、この女の姿を探すように、と」


「………あ!」


その言葉に、再び記憶を探る。そして思い出した。


確かに言っていた。沙織が居なくなって、どうしようか分からなくなって、総司と一緒に土方さんの所に行ったんだ。そん時言われた言葉だ。



「……探す、…即ち確保しこの屯所に連れてくる事が命令だ。……そうでなくても、俺はコイツの事をまだ危険人物だと思っている。そんな奴を京に野放しにしてられねぇよ。」


「そ、それじゃあ…!!」


「……だが、次逃げ出した際には、容赦なく切る。その事を肝に銘じておけ」


「おう!!ありがとう!土方さん!!」



それだけ言って、土方さんは出て行った。


再び沙織に向き直った。


早く起きないかな。


そんな事を想って、俺は刀の手入れに取りかかった。





見つけた
(ちゃんと、分かったよ)
(あんたのホントに気持ち)


――‐


ヒロインちゃん病み期脱出…?

キリが良かったので、ここで切らせていただきました。今回短い\(^o^)/








 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]