鈴の音と下駄の足音

恐怖の中の光
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「……あ、の…。」


新選組の人たちは帰ったようで。清華さんの部屋に入って、彼女の前に座る。


だけど、清華さんは一向に何も話さず、暗闇に浮かぶ月を見上げていた。


自分から控えめに声をかければ、彼女は始めてあたしに目を向けた。


「………大丈夫でありんしたか?」


「……は、い…。」


何処から話が回ってきたのか知らないが、男に襲われた事を、彼女は知っていた。


「………沙織さんは……男の方が、苦手でありんしたか…。」


「…ッ!!な、んで……それを…!!」


「………どうなんでありんすか?」


「…ッ」


前から思っていたが、彼女は優しく、ふんわりした雰囲気の割にはいろいろな事に関して凄く鋭い。


「……そう、…です。」


ギュっと手を握って、目線を下にして言った。


途端、スっと自分の上に影ができ、見上げれば、目の前には清華さんがいた。


「……辛かったでありんすな。」


「ッ!」


優しく、頭をなでてくれた。


「…ッ……ふッ…ッズ」


今までたまっていた恐怖とストレスが涙になって出てきた。


泣きじゃくるあたしを、彼女は抱きしめた。


凄い高いであろう着物が、涙でぬれてしまう事も、気にせず、泣きやむまで抱きしめてくれた。


決めたんだ。彼女のために、あたしはここで働く。


だから…、


だからもう、


新選組には戻れない。


――‐


その決意を決めてから一週間が経ったある日の事。


事件が起きた。



あの日から、あたしは裏方の仕事をさせてもらってる。


それなりに慣れてきたし、元々家事とかは得意な方だから。


「日向!!」


「は、はい!」


突然、店主に名前を呼ばれた。ビックリして洗いかけのお皿を落としそうになった。


「人手が足らん。今すぐに接客に回ってくれ。」


「え、…」


「早く行けッ!!」


「は、はい!!」



店主の人は苦手だ。


初めて会った時からあまり良い印象ではなかったし。釣り目野郎みたいだし。


一週間ぶりにされるお化粧は、やっぱりあまり好きではない。


――‐


「お前は…!!自分が何をしたか分かっているのか!!!」


「…す、いま…せん。」


や っ て し ま っ た


接客をしにいって、最初の方は順調だったんだ。


だけど、途端手を掴まれて、一週間前の記憶が甦って、相手の顔を思いっきり殴ってしまった。


もちろん客は大怒り。店主に見つかり、只今お説教を食らっている。


「聞いているのか!!」


バチンッ


この小さな部屋に、乾いた音が鳴り響く。


また、殴られた。


男に。


男に。


お、とこ…に。


嫌だ。



「…い…や…。」


「…何だ?」


「……もう、…い、やだ…。」


「…おい、」


「いや!!!」


涙で視界がぐちゃぐちゃに歪む。





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