鈴の音と下駄の足音
□恐怖の中の光
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「なにしてんだよッ!!」
「…と、…どう…さん…」
涙が、一粒流れた。
part10 恐怖の中の光
見たこともない怒った表情で入ってきた藤堂さんは、あたしの上に乗っかっているクソおやじを力ずくで投げ飛ばす。
「なにするんじゃ貴様ッ!!」
「…今すぐうせな。」
静かにそう言い、真っ直ぐ相手に向かって剣を向けた。あたしを庇うように、前に立っているため、目は見えないが、きっと鋭い目つきをしているのだろう。
「ひ、ひい…!!」
情けない声をあげて、男は去って行った。
「…大丈夫…って!!ご、ごめんッ!!」
振りむいた瞬間、彼は顔を真っ赤に染め、再び反対方向を向いた。
何かと思って自分の格好を見た。
「ッ!!」
乱れた格好。
「す、すいませんッ!!」
すぐに整えたけど、心臓のバクバクと唸る動きは全く止まらない。
「……………沙織…だよな…?」
「…ッ」
「……日向沙織、……だよな…?」
「…ち、がいます…。」
こんな事言っても、もう無駄なのに。否定の言葉を言えば、彼は勢いよくこちらを向いた。
「違わないだろ!?ずっと探してた!心配だったんだぞ!?」
「ッ違うってば!!」
「……じゃあ、…じゃあ何で……俺の名前知ってたの?」
「…ッ」
あぁ。やってしまった。
藤堂さんが助けに来てくれた時、無意識に呼んでいたんだ。
「……な、なんで…。何で男嫌いのお前がこんな所にいるんだよ!?」
「そ、それは…。」
「無理矢理やらされてんのか!?そうだろ!?」
「違うッ!!」
「……今すぐこんな所出て行くぞ。」
低い声でそう言い、手首をつかまれ引っ張られる。
「ッ!!は、離して!!触んないでッ!!」
「ッ!…ご、ごめん…。」
強く言った事で、彼はハッとした表情になり、手を離した。
「………俺、…ただ………ただ沙織に……戻ってきてほしいんだよ…ッ」
「…」
「……勝手な事かもしれないけど…、…俺が、…沙織の男嫌い直したい、って思ってる。…俺がきっかけで、…直せたらな、って…。」
声が、震えてた。
「……だからお願い!!戻ってき「今更!!」
言葉を奪えば、彼は勢いよくあたしを見た。
「…今更、…戻ることなんて、出来ない。」
「大丈夫だって!!俺が土方さんに話しを「そういう問題じゃないの!!……分かってよ。」
彼の表情は、辛そうで、悲しそうで。
すると、気まずい空気が渦巻くこの場に似合わない可愛い声が聞こえた。
「…沙織様、」
この声はお琴ちゃんのもの。
「…はい。」
「……花魁がお呼びでありんす。」
「…はい。」
「…藤堂様、お連れのお方がお呼びでありんす。」
「…おう。」
襖を開けたまま、彼女は「失礼するでありんす」と一言残しこの場を去って行った。
「………お客様にこんな事を言うのは失礼極まりないと、承知の上で申し上げます。」
何で、こんなにも、
「……もう、此処へは、…来ないでください。」
苦しいんだろう。
唖然とする彼を置いて、あたしは部屋から出て行った。