喧嘩対処法

不器用だから、
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「プリンセス!!あにゃた…。」


「平助ー。お前いい加減にしろよ?その棒読みとセリフ間違え。」


「……わりぃ」



そんなあいつの姿を見ても、笑うことも、からかうこともできない。




31,不器用だから、




最近では文化祭の準備も本格的になってきた。

大道具も何とか間に合いそうだ。毎日放課後のこっての準備だけど…。


振られた日から、平助はちょっとだけど、前より話しかけてくるようになった。

こっちはただみじめなだけだってのに。どこまで鈍感なんだか。



今は放課後で劇の練習。その周りであたし達大道具係は作業を行っている。



「はい。じゃあ次、王子様がお姫様にキスしてお姫様が目覚めるシーン。」



その言葉に少しドキッとする。チラッと盗み見した。そこには目をつむり床に横になっている今野さん。そしてその隣に膝をつく平助。




あぁー。心臓痛い。



「ねぇ、これ本当にキスすんの?」



と、10人いたら10人が「お前馬鹿だろ」と言うであろう発言をしたのはクラスのお調子者の高瀬。



「は!?す、するわけねぇだろっ!!」


「な、何言ってんのよ!高瀬!!」



顔を真っ赤にして否定する平助と今野さん。



ふいに、平助とばっちり目が合った。


だが、こっちから思いっきり目をそらしてしまう。最近はいつもこんな感じだ。




「痛っ!!」



高瀬、さっきアンタの事を馬鹿呼ばわりしてごめんね。あたしも十分馬鹿です。



「沙織ちゃん!?大丈夫!?」



ぼーっとしながらトンカチを使っていたあたし。ベタな話だが、親指を思いっきり打ってしまった。この前のカッター事件といい…。何してんだ、あたし。



「すごい赤くなってるよ。」



心配そうに顔を覗き込む千鶴ちゃん。教室内もさっきの騒がしさとは真逆にシーンとなっている。視線がずきずき刺さる。




「……シップ、…もらってき、ます。」



打ったのは指だけのはずなのに、なんか体中の体力が奪われたような感覚になる。



うお。ふらふら。



「俺も、一緒にいくよ。」



「え、…」



いまだに沈黙が続く教室に響いた声。それは一真のものだった。



「…だ、大丈夫だよ!」


「いや、……一緒に行く。」


「え、ちょっ!」


腕つかまれ、そのまま教室を後にした。


――‐



「…なんか、…ごめんね。」


「ん?…俺が好きでやってんだから。」


「……うん。……ありがとう。」



保健室に行ったが先生は出張らしく、今はいない。一真が手際よく手当てしてくれた。



「……沙織、…最近また元気なくなったよね、」


「え、…」


手当ても終わったし、教室に戻ろう、と思った時、一真が少し悲しそうな顔をして聞いてきた。



「………そんなことない。」


「……沙織には悪いんだけど…。…平助とのこと、…俺知ってるんだ。」


――‐


「わ…。何か今の一真ちょっとかっこよかったね。」


一真が沙織の腕をつかみ教室から出て行ったあと、1人の女子が言った。



「ね。王子様!って感じ。」


「…」


「何だよ、平助。王子様役取られそうで怖いのか?」



と言ってきたのはまたもや高瀬。



「んなわけねぇだろ。お前マジでちょっと黙ってろ。」



結構マジで言ってつもりだったのに、冗談で受け取った高瀬は笑いながら謝る。まったく、めでたい奴だ。



「てか、一真と日向さんってあんなに仲よかったっけ?」


「あー、あたしも思った。付き合ってるとか?」


「えー!?すごい意外な組み合わせ。……でもよくよく考えてみれば、結構お似合いかもね。」



そんな奴らの会話に、心臓が激しく波打った。


付き合う?

んなわけねぇだろ。だって、……俺のあの気持ちは…伝わって…る、んだよな…?


まだ、待っていてくれてるんだよな…?



「お、おい!平助!どこ行くんだよっ!」


「ごめっ!ちょっとトイレ!!」


走って、保健室に向かった。


――‐


『……沙織には悪いんだけど…。…平助とのこと、…俺知ってるんだ。』


「!?」



知ってる?一真が?


…知ってる、って…どこまで?


あたしが平助の事好きなのを?告白したのを?



振られたのを…?



「…な、んで…。」


「…平助から、…聞いちゃって。」



心臓がバクバクなって、すごく恥ずかしくなって…。


でも、…なんか…。もう、いいや。


そんな気持ちもあったんだ。



「……そう。」


「……ごめんな?」


「…いや、…別に。………それに、もう終わったし。」


「…え?」


…やっぱり、…あたしが振られたことは知らないらしい。



「……あたし、振られたんだよ?」


「え!?」


「……ははっ」


涙なんて、もう出てこない。



ガラっ



勢いよくドアが開いた。


そこには息を切らした藤堂が立っている。


…怒ってる……?


心なしか、そう見えた。



「……ちょっと来い。」


「は!?ちょっ!!何!?」


「いいからっ!!」



無理やり引っ張られ、保健室を後にする。ちょっと後ろを振り向けば、複雑そうな顔をした一真がいた。



――‐



連れてこられたのは、校舎裏だった。


掴まれた腕からこいつの体温が伝わってくる。



「…痛い。」


ぼそっと呟けば、平助は足を止めてぱっと腕を離した。



「……何?」


冷たく言い放った。


振り向いたこいつの目にはやっぱり怒りがある。



「…やっぱり…届いてなかった。」


「…は?」


「『わかったから』とか言っといて、何にも分かってねぇじゃん!!」


「いきなり何!?意味分かんないんだけど!!」


「…この前の電話。」


「………あれが何?」


「……俺、…沙織の事、今までそういう風に見たことなかった、って言ったよな。」



ズキンっ



静かにうなずいた。



「……だから、…」


「もう何なの!?またあたしを振るつも「人の話を最後まで聞け!!」



何?最後まで、って…。どうせ『ごめん、』でしょ?


最後まで聞きたくなかったから話を切ったのに。



「……だから、」



あいつの目は、あまりにもまっすぐで。そらすことを許さない、と言うように。



「…だから、……もう少し、俺に時間をくれないか?」


「え、」


「……沙織のこと、しっかり見てみるから。」




今までとは違う意味で、胸が鳴った。







器用じゃつまらん
(不器用なやつは、不器用なりに)
(がんばってるんだよ。)
(だから、器用なやつより)
(面白い物語が作れる。)





――‐

ヒロインちゃん連れ去られすぎだよな…。







 

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