喧嘩対処法

もしも、〜だったら
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もしも、


なんて、いいたくない。



29,もしも、〜だったら






今日から10月。ちょっと肌寒くなってきたこの季節。夏よりは好きだ。


そして、学校はもうすでに文化祭ムード。


一か月後にある薄桜祭。それに向けて、もうクラスごとに動き始めている。



「おはよう、」


「…おはよう、一真」



曇り空を眺めていれば、一真から挨拶をもらった。それに普通に返したつもりだが…、


「…やっぱり、」


「…え?」


「…やっぱり、…沙織最近元気ないよね」



返す言葉に迷う。自分でも思う。以前より暗くなったというか、無愛想になったというか。



「……そう?」


「そう。」


くしゃっと笑った後、頭の上にポンと手を置いた。



「何かあったら、相談しろよ?」


「……ありがとう。」



それだけ言って、彼は何処かに行ってしまった。



平助とは、あれ以来全然喋ってない。


お互いちょっと避け気味だし。もう、このまま終わっちゃうのかな。


――‐


6時間目のHR


今回は、今月の25日にある薄桜祭にやる劇と、クラスでの出し物について決めるらしい。


そういえば、この前アンケートとったよな…。



学級委員が前に立ってアンケート結果を描きだした。


劇の一番多かった投票は眠れる森の美女


出し物で多かったのは喫茶店。その後多数決でこれに決定した。


あ、…あたしが書いたのと一緒だ。


別に、嬉しくともなんともないが。


「お!俺が書いたのと一緒じゃん!」


その声に振り向けば、やっぱりアイツの姿。


彼と同じのを書いた、と思っただけで心拍数が上がって、ちょっとだけ嬉しく感じる。


はぁ。…こんなんじゃ諦めるのに時間がかかりそうだ……。



「平助が眠れる森の美女!?似合わねぇ。」



そう言ったのは一真で。その言葉にクラスから笑いが漏れる。


「う、うるせえ!!」


ちょっと頬を赤くしてそう言う彼。



次に決めるのは配役だ。


オーロラ姫(1)

王子様(1)

妖精(3)

魔女(1)

小道具(6)

大道具(6)

衣装作り(5)

台本作り(2)



計25人


このクラスは38人だから、残りの13人はきっと喫茶店の方の飾りつけなどを作るのだろう。



「はい、じゃぁ…。お姫様役やりたい人」



シーン…



学級委員のその言葉に手を挙げる人は誰もいない。まぁ、自分から言う人はそう居ないだろう。



「…じゃ、じゃあ…飛ばすね。…王子様やりたい人ー!」



シーン…



あれだけ盛り上がってたのに…。こういうときは誰ひとりとして前に出ない。



「平助やれば?」


「は?」



そんな話し声が聞こえて、チラっとそっちの方を見た。


そこには、後ろの席の山田と話している平助の姿。



「お前ぜったい似合うって!嫌なのか?」


「……いや…、別に…、そういう訳じゃ「委員長ー!へーすけ王子様役やるってよ!」は!?やるとはまだい「マジ!?サンキュー平助!」



…ドンマイとしか言いようがない。



…平助が王子様役って事は……、



「じゃあ、もう一回聞くけど…、お姫様役やりたい人…」



「「「「はい!」」」」


こうなるわけだ。



さっきと違ってクラスの半分くらいの女子が手を挙げている。その人たちの顔を見れば、平助の事をカッコイイと言って言る人達ばっかりだ。



「えーっと…じゃあ…、じゃんけんで。」

苦笑いの委員長。女の子たちの目は燃えている。



「誰になったー?」


「あ、あたしです…。」



ちょっと控えめに言う彼女は今野ナナコさん。平助とも結構仲のいい子だ。



「よろしくなー」


「う、うんッ!」



…この子、きっと平助の事好きだ……。




そんなこんなで配役が決まった。


あたしは大道具係になった。


ちなみに一真も。



「じゃあさっそく今日の放課後から打ち合わせやらなんやらやっといてねー」



そんな適当な…。



――‐


それから2日経ったある日の放課後



「このペースで間に合う?」


「……きつくね?」



もう外は真っ暗になっていて。大道具係だけが今日は残っていた。


打ち合わせした時、必要なものがあれこれ出てきて、決まったのは良いんだけど…。思うように作業は進まなくて。まだ日にちはあるけど、このままのペースだったら間に合わないかも…。


「こ、こんな時にごめんだけど…。あたし今日用事あって…。」


そう言う女子に続き皆も用事があるようで…。


「あ、あたしだけ…?」


「わりぃ!明日は手伝えるからさ!」


顔の前に手を合わせて謝る一真。他の皆も口ぐちに謝る。



「だ、大丈夫だよ。……あんまり進まないともうけど…、やっとくね。」


ちょっと不安が心の中に残っているあたしを置いて、皆は帰って言った。



カッターで段ボールを切る音だけが響く。


時間のある限り頑張ろうと思い、カッターを握る手に力を込めた。



ガラガラ――‐



作業を初めて10分くらい経った時だった。行き成り教室のドアがゆっくりと開いた。


その音にビックリして、バッと向けば…、


「あ、…」


「…」


そこには平助がいた。


声を漏らした平助とは違って、あたしはギュっと口を閉じた。


忘れ物をしたのか、彼は自分の机に向かった。



き、気まずい…。


心臓が痛い。


今、平助は何を思ってるんだろう。あたしみたいに、緊張してるのかな?


って…、んなわけな…



「痛ッ!!」



思わず声をあげてしまった。ガチャンと刃先に血がついたカッターが床に落ちた。


いろいろ考え事をして作業をしていたから、うっかり指を切ってしまった。自業自得だ。何してんだあたし。



「…ッ」



傷はそこまで深くないはずなのに、血はドクドクと流れる。


絆創膏は…持ってない。


保健室は……もうこの時間だからきっと空いてない…。


どうしよう…。



「大丈夫か!?」


「ッ!!」



心配そうな顔をして駆けつけてくれた平助。手が触れる。


こんなに近くに居るのは久しぶりで。喋るのも久しぶりで。なんか彼の声が懐かしく思えた。



「だ、いじょうぶ…です…。」



何で敬語なんだ、あたし。



「……大丈夫なわけねぇじゃん。俺、多分絆創膏持ってるから。」



最初の間がちょっと気になったけど…。


そう言って鞄から絆創膏とティッシュを取り出し、手当てをしてくれた。



「……ありがとう…、…ご、ざいます」



だから、何で敬語なんだ、あたし。


コイツに敬語何て死んでもいやだったのに。


「………まだ、残る?」


「え…?」


「…まだ、作業やる?」


「あ、…いや…。今日は…此処までだけど…。」


「…………送ってくよ!」



「……え………?」



「…も、もう暗いしさ!」



そう言う彼の言葉に、甘えるしかなかった。


予想はしてたけど、教室を出てからずっと沈黙。



学校の門をあと一歩で出れる時、



「あ、のさ!」


「……な、に…?」


あたしの一歩後ろを歩いていた平助が声をかけてきた。



「……こ、の前…の……事なんだけど…あれ…、」


「……………嘘じゃ、…ないよ。」



こんな現状嫌だけど、逃げるのはもっと嫌。



「…………俺、「沙織!!…って平助も!?」一真!?」


平助の言葉を遮ったのは、一真の声で。



「え、…な、んで?…用事あったんじゃ…。」


「あ、その事は…俺間違えてたみたいで、本当は明日だった。…で、…手伝いに来たんだけど…、終わっちゃった?」


「う、ん……ごめんね…。」


「良いって!明日も手伝えないけど、またやろうな。」


「うん…。」



「で…。……お邪魔だった…?」



「ッ!!ち、違う!!大丈夫!!大丈夫だから!!じゃ、じゃあ…あたし先帰るね!バイバイ!!」


一真のその言葉にズキンと心臓が痛くなった後、ボッと顔が熱くなるのが分かった。


一瞬合ってしまった平助の目は、何か言いたそうだったけど、その言葉を聞くのが怖くて、走って帰った。



はは、…あたし、結局逃げてるじゃん。



「あらら…。いっちゃった…。」


「…じゃ、…俺も帰るから……。」


「待てよ。……ちょっと、話さねぇ?」


「………別に良いけど…。」





〜=
同じ気持ちだったら

(もう少し、)
(一緒に居ても良いでしょ)


――‐

絆創膏という名の女子力アップアイテムを持っている平助君←

最後の言葉は…、あの歌の歌詞を使わせていただきました^^






 

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