喧嘩対処法

迷路のような、
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「……日向…?」


「…さい、と…せんぱ、い…」


目が合った瞬間、ポロっと1粒の涙が落ちる。


それに少しだけ驚く斎藤先輩。


あたしたちの間に、夏にしては涼しい風が通り抜けた。




27,迷路のような、





「……どうした?」


「…あ、…いや…。…何でもないです…」


バッと目を逸らせば、先輩はあたしの隣に腰を下ろした。


「…」


「…平助と、何かあったのか?」



何で分かるんだ。コノヤロウ。



「…な、んで……、そう思うん、ですか…?」


「…あんたの家に行った時も、ぎこちなかっただろう」


「……もう、…どうしたらいいか、…分からないんです。」


「……あんたは、平助の事を好いているのか?」


はぁ。…そんな率直に聞きますか?


「……そんな感じです。…だけど、もうあたしが入れる隙間何て、これっぽっちもなくて。」


「……何故あんたがそんな事を決めつけている?」


「…決めつけてる、って…実際そうなんですからしょうがないでしょう。」



そう言った時、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。あ、今って昼休みだったのか。


すっと斎藤先輩はその場に立ち上がった。



「……あんたは、1つ大きな勘違いをしている」


「…え、」


「…それが何かを教えてやるほど、俺は優しくない」


「…」


「……今日だけは、サボる事を見逃してやる。…次はないと思え。」



そう言って、先輩は屋上から出て行った。



…大きな勘違い……?


なにそれ、


…もう、何なの……?


―--


ずーっと空を眺めていただけ。それだけなのに時間はもう2時間以上たっていたみたいで。


グラウンドからは野球部の体操している掛け声が聞こえた。


人生で2回目のサボりだけど、今回も気分のいいものじゃなかった。


あれ。前にもこんな事…


あったね。あの時もアイツの事で此処にいた。



教室に向かえば、もう誰もいなくて。だけど、平助はまだ学校にいるのか、鞄が置いてある。


それをぼんやりと眺めて、教室を後にした。


外は、ちょっとだけ薄暗い。



―--



あー。これからどうしよう。


だって、気まずすぎるでしょ。



…それにしても、


『あんたは、1つ大きな勘違いをしている』


先ほど斎藤先輩に言われた言葉が再び頭の中に浮かび上がった。


「……何よ、それ。」



と、呟き、ため息を吐くのと同時に、誰かに腕を掴まれた。



「ッ!!」


ビックリして勢いよく後ろを振り向けば、そこには息を切らした平助がいた。


「はぁッ…お前…、今まで…はぁ…」


途切れ途切れに言葉を発する姿を見ると、急いできたのだと受け取れる。



「………別に、どこだっていいでしょ。」


「…お前…、いい加減にしろよ!!!」


「ッ!?」


そっぽを向きながら無愛想に言うあたしにとうとうキレたのか、彼は掴んでいる右腕を引っ張り怒鳴った。



「な、によ…。」


「こっちの台詞だ!!様子がおかしいと思って心配してやってんのに、何だよ!その態度!!」


「……ない…、」


「は?」


「『心配して』なんて頼んだ覚えない!!余計なお世話よ!!」


「だったら…、だったら何なんだよ!何でそんな今にも泣きそうな顔してんだよ!」


平助の言葉にはっとする。


違う。違う。違う違う。


あたしが望んでいるのはこんな現状じゃない。


定まらなかった目線が彼の目に定まったと思えば、彼はさっきの怒っている表情から悲しそうな表情に一変した。



「俺、……沙織に避けられるの、…耐えらんねぇんだよ…」


「…ッ」


「何か、さ…すげぇ嫌なんだ。沙織にそんな態度取られるの。…心臓痛くなるし、…もう嫌になってくるし…。頼むから…、避けないでくれよ…、」



そう言う彼は、だんだんと視線を下に落とす。


心臓がバクバクバクバク鳴っている。


でも、でもね…、


「…そんな、…事…、」


「…え…?」


「そんな、…そんな期待させるような事言わないでよ!!あたしがどんな気持ちでいるかも知らないくせにッ!!」


いきなり怒鳴るあたしに、彼は言葉を失いただ驚いた眼であたしを見る。


「…それに、…あの子に勘違いでもされたらどうするの!?あたし、庇ってあげられる事なんてできないから!」


「さっきから、…何、言って…、」


あたしが何を言いたいか、彼には伝わっていないよう。その姿に、だんだんイライラも募ってきた。


「だからッ!彼女がいるのに、こんな所でこんな女相手にしてんな、って言ってんの!!!」


「……は?」


……は?


何なのその馬鹿面!!ムカつくなぁ!!!


「…な、によ」


「ちょ、ちょっと待て、……か、のじょ…って…?」


「…は?……だから、アンタの彼女」


「……お、俺!?」


「そうよ!!」


「…お、俺彼女いねぇぞ?」


「……はぁ!?」


「だ、だから…彼女なんかいねぇし…。」


「え…だ、…って……この前、…あの女の子と…、」


「あー…、…あれはただ一緒に遊んでただけで…、…告白も、………断ったし…」


「う、そ…」


ちょ、ま…、あたし…もんのすごい勘違いしてた、ってこと!!??


「え、何!?お前…、ずっと勘違いしてて、あんな態度とってたっての!?」


「………あ、えーっと…、用事あるから…、…ばいば「待てよ」…すいません」


「……はぁ。そんなオチかよ…。」


「…すいません」


そう言う彼の目はものすごく呆れた目をしていて。



「…てか、俺がアイツと付き合ってるから避ける、っていう意味がわかんねぇけど。」


「……馬鹿なアンタには一生分からないでしょうねッ!」


「あ!?」


「ホント馬鹿なんだから!馬鹿!鈍感!!タコ!馬鹿!!」


「タコ!?タコって何だよ!しかも馬鹿って2回言っただろ!」


再び怒鳴るあたしに彼もさすがに言い返す。


何でだろう。あたしの勘違いで、本当は喜んでいいはずなのに。それなのに、悲しさは変わらないで。



「…あたしは、こんなにも…、」



「え、」


もう、自分の気持ちを抑えられそうになくて。


「…こんなにも……、」


きっと、「悲しさ」が取れないのは、


「……平助の事が、」


彼の気持ちが、


「……好きなのに。」


あたしに向いていない事が、分かるから。






やっぱり逃げる
(走って逃げても、)
(今回は、)
(彼はあたしを止めなかった)


―--


言っちゃった←

あはは。



それにしても、最初の斎藤さんとの絡みが必要だったか、今になって心配になってきた。


必要だったか…?

うーん。って感じですね。






 

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