喧嘩対処法

涙と戸惑いのすれ違い
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「えー、皆有意義な夏休みを過ごせましたか?今日からまた学校が始まります。いつまでも夏休み気分でいないで、しっかり切り替え今後学校生活を送りましょう。」



始業式。暑苦しい体育館に全校生徒が集まる。長ったらしい校長の話もようやく終わり、始業式は幕を閉じた。



クラスごとに男女それぞれ1列に並ぶ。あたしは女子の中ではそこそこ大きい方だから半分よりちょっと後ろ。平助は男子の中では小さい方だから半分より前。


そんな彼の後姿を見て、目頭が少し熱くなった。




25,涙と戸惑いのすれ違い





あれから、彼とは電話もメールもしてなければ、会ってもないし喋ってもない。


ま、会ったりしたら彼女さんに失礼だし。


このまま喋らなきゃ、彼に対する思いもなくなっていくだろう。


早く、一刻も早くこの苦しさから逃れたかった。



「…ひ、ひさしぶりだな!」


「…うん。」



教室に戻るなり、平助に言われた。なるべく彼の目を見ないようにする。



もうすぐ席替えもあるだろう。早くしないかな。


今日は授業はない。もう終わった1時限目の始業式と2時間目のHRで終わりだ。



HRは課題の回収と先生のダルそうな話で終わった。



「沙織…!」


「…何?」


下校途中、後ろから声をかけられ振り向けば平助がこちらに向かって走ってくる。



「……この前、…何で逃げたんだ…?」


「…別に、…逃げてないけど?」


予想はしていた。聞かれるだろうな、と。


「……じゃあ…、何で泣きそうな顔をしてた?」


「……見間違えじゃない?……ごめん、あたしこの後用あるから。」



一刻も早く彼から逃れたかった。これ以上好きになっちゃいけないの。


冷たくそう言って、歩き出そうとしたが、


パシッ


「……何?」


「……ちゃんと答えろよ。」


「…だから、言ってんじゃん。見間違えじゃないの?泣いてないし。本人が言ってんだからさ。」


「じゃあ、…俺の目見て言ってよ。」


「…ッ」


ズキズキと視線が刺さる。きっと彼はあたしを真っ直ぐ見ているだろう。あたしは見ない。見れないんだ。


きっと、今見たら、泣いてしまうから。



「……しつこいよ。………何なの?」


「こっちの台詞。…何か今日お前変だぜ?何かあったのか?」


「…別に。……あったとしても、アンタに話す事なんてないし。」


「………そっか。」


すると、パッと腕を握られていた感覚がなくなった。ちょっとだけ寂しさを感じる。



「……時間取らせたな。………じゃあな。」


こうなる事を望んでたのに、いざちょっと冷たい態度取られると、…ほら。



「ッ…」



涙が出るの。



去っていく貴方の後ろ姿を見て、涙がどんどん溢れてくる。


―--



「てめぇ!!馬鹿にしてやがんのか!」



次の日、プリントを提出しに職員室に行けば土方先生の怒鳴り声が響いた。


何があったのか、とそちらに目線を向ければそこには怒られている平助の姿。そっと耳を傾けた。



「休み中の課題プリント、ほとんど白紙じゃねぇか!!」


「だ、だって分かんなかったからさ…」


「分かんなかったら調べろってんだ!!当たり前だろ!!」


「す、すんません…」



どうやら夏休みの課題についてだったらしい。そう言えば、一緒にやったのって数学だけだったな。


「まぁそんな怒るなよ、土方さん」


「永倉、何庇ってやってんだよ。」



と、そこで話に入ってきたのは数学担当の永倉先生。



「別に庇ってる、ってわけじゃねぇよ。平助、お前、数学頑張ったじゃねぇか!ほとんど合ってたぜ」


「え、…あ…、…それは…、」



それは…、…その後に続く物は何?いつの間にか目線もそっちに行っていて。その目線に気付いた平助。バッチリ目が合ってしまった。だけど、すぐに逸らされ、先生達との話しにもどる。



「それは、…何だよ?」


「…いや。別に。…じゃあこれで俺、数学は5だな!」


「おまッ!調子のんなよな!」


いつもの調子の平助に戻った。なぁんだ。結局、あたしの事は何1つ気にしてないのか。


…って。何欲張ってんの。



職員室を出て教室に向かった。


「…沙織!」


すると、たった今出てきた平助に昨日のように呼ばれた。


「……どうしたの?」


「数学の課題、ホントありがとな!」



昨日、あれだけ冷たい態度をとったあたしに、こんなにも普通に話しかけ、こんなにも嬉しそうな笑顔を向けてくれる。



「あ、いや…別に…。」


「沙織がいなかったら新ぱっつぁんにも怒られてたぜ。」


楽しそうに笑う彼。やめてよ。



「………うん。……じゃ、教室戻るね、」


「おう!……そうだ!」


「…何?」


「また、一緒に宿題やろうな!!」



貴方の笑顔は、あたしからしたら本当に眩しすぎて。


その笑顔、大好きなんです。


大好きだからこそ、もうその笑顔を向けてもらっては困るのに。…貴方は何で…、



「ッ…ズッ」


「え!?…な、何で泣いて…!」


「な、んでもない…。…ごめん、…じゃ、」


「待てよ、」



肩を掴まれ、振り向かされる。

そのまま壁の方へ追いやられた。


「…な、に…?」


「……本当に、…どうした?…」


「…ッ」







笑顔と本音の
カッコつけ遠回り

(駄目なんだ。)
(駄目なんだよ、)








 

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