喧嘩対処法

何もかもを込めて
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「あ、沙織ちゃん!よかった。…そういえば、野球の試合の時平助君が探してたよ」

体育館に行けば、もうユニフォーム姿に着替えている雪村さんが迎えてくれた。

「…さっき、会いました」

「沙織ちゃん…?……泣いてるの?」

「………迷惑は、かけませんので。」

ユニフォームに着替えるため更衣室に入った。



17,何もかもを込めて




「これより、1年1組対1年2組の試合を始めます。第1試合に出場する選手は、コートに入ってください」


9時30分 予定時間ぴったりにバレーの試合が始まった。

第3ゲームまでやって、2勝したチームが勝ち。あたしは第1ゲームと第3ゲームに出る予定


ゲーム開始の合図とするホイッスルの音が体育館中に響いた。



相手チームからのサーブ。響く応援合戦


いろんな音、声でうるさいはずの体育館。あたしには一切聞こえない。

目の前は白と黒。

目をつむると浮かぶのはアイツの別れ際の表情。



「沙織ちゃん!」


「ッ!」


名前を呼ばれ、一瞬だけ世界に色が戻る。


ボールがあたしに向かって迫ってきた。その場でなんとかレシーブをし、点を取られるのを防ぐ。


駄目だ。迷惑をかけては。


集中しなきゃ。集中。


そして、一回目を閉じれば、再びアイツの顔が浮かぶ。


相手のスマッシュが決まった時点で、第1試合終了の合図が体育館に響いた。


負けた。


「どんまいどんまい。後2回勝てばいいだけだよ!任せて!!」


第2試合に出るバレー部の人とバトンタッチ。あたしはしばしの休憩だ。


「…はぁ」


「…平助君と、何かあったの?」


座った途端、ため息をついたあたしを見て雪村さんが聞いてきた。彼女もあたしと同じ第1試合と第3試合にでるんだ。


「………あたしがいけないんです。全部全部。」


「……平助君はさ、さみしがり屋なんだよね。」


「…はあ」


「……しっかり話してきたほうがいいんじゃない?試合にもあんまり集中できてない感じだし」


「……話す、って…何を?」


「沙織ちゃんが思ってる、全ての事…ってのはアレかもしれないけど、今思ってること全部!スッキリするよ?」


全部?


“応援行けなくてごめんね?”


…違うね。


確かにそれも伝えなきゃいけないけど、あたしが思ってることはもう1つある。


「…行ってきます」


「いってらっしゃい。次の試合に遅れないようにね?」


「はい。」


アイツがいるであろう校舎裏に向かって走った。


伝えなきゃいけないこと?


「藤堂!!」


「…沙織、……何?…今試合なんじゃないの?」


「抜けてきたの!あんたに言いたいことあるから!」


「……何?…ごめん、とかだったら聞かないよ。」


「大丈夫。もうあんたに謝る気なんてこれっぽちもないから」


「は?……じゃあなんだよ?」


すごい嫌そうな顔をしている藤堂。きっとあたしの言葉にカチンときたんだろう。ちょっといつもの表情に戻ってきた。



「応援行けなかったくらいで、いじけてんじゃねぇよ馬鹿野郎!!!」


そう叫んだ後はナイスなドヤ顔。これがあたしが伝えたかったことだ。


「………はぁ!!??」


ほら、いつもの顔に戻った。


「行けなかったことは謝るけどさ、人が謝ってるのにあの態度ないんじゃない?」


「何言ってんだよ!お前が約束破らなきゃこんなことにはなんなかっただろ!?」


「だから、それは認めるけど、あの態度何?小学生か、っての。」


「お前なぁ…!!」


「だから!!」


「は?」


「だから!!そんなところでうじうじしてないで、さっさとあたしの応援しに来い!ばーか。」



そう言って、あたしは再び体育館に戻った。



「…馬鹿はどっちだよ」


そういう藤堂の声は、さっきより明るい


―--


「お帰り、沙織ちゃん。今丁度第2試合終わったよ。もちろん勝ったよ」


「よかった…。」


「その表情、ちゃんと話せたみたいだね」


「はい。」


「絶対勝とうね!」


そんなこんなで第3試合が始まった。


こっちにもバレー部の子はいるけど、相手にもバレー部の子がいる。


結構な接戦だ。スマッシュをたくさん打つが、思うように決まらない。それはお互いだった。


もう時間がない。


「ッ!!」


バレー部の子が相手のスマッシュをレシーブで点を取られるのを防ぐ。そのボールはあたしの方に向かってやってきた。


「日向さん!!そのままスマッシュ!!」


ボールに向かって手を挙げた。狙いを定めて…!!


―--


「…誰がアイツの応援なんて……、」


アイツから約束破ったくせに、勝手なことばっかり言って去っていきやがって。


でも、ここでアイツの応援をしに行かなかったら、凄く後悔しそうな気がする。


アイツが去ってから約10分は経った。


「……あー!!もう!!」


自分に活を入れ、体育館に向かって走った。



ピピー!!


体育館に一歩入った瞬間、試合終了のホイッスルが鳴った。


一瞬の沈黙の後、一気に歓声がわきあがった。


「ハァ…ハァ……終わっちゃった…?」


「やったぁ!!沙織ちゃん!!ナイススマッシュ!!」


「え、あ…ありがとう」


ちょっとだけ現状が見えてきた。どうやら試合は勝ったらしい。そしてその決着を付けたのは沙織。沙織の周りにわらわらといろんな人が集まってきた。


正直、面白くない。


「あ、藤堂!!」


俺の姿を見つけた沙織がこっちに向かってきた。


「…」


「…な、何よ、」


何も言わないで、じっとコイツを見る俺にちょっと不安そうに言う。


「おめでと。」


「え、」


「ま、あんなのマグレだろうけどさ。」


「だから、アンタは何時も一言余計だって言ってんの!!」


「こっちの台詞。…次は、俺も勝つからさ、バスケ。」


「うん。応援行くよ、一真にも来てって言われたから」


「…一真に?」


「うん。……何か?」


「……いや、別に。」


その時、沙織を呼ぶ千鶴の声が聞こえた。


「い、今行きます!…じゃ、また後で」


「おう。」



再び、いろんな人に囲まれるアイツの姿を見た後、俺は1人体育館を去った。





届きましたか?
特急便で、
出したのですが、

(はい、届きました)
(響きました)



―--


もっとドロドロにする予定だったのに…←










 

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