喧嘩対処法
□届かないパス
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たくさんの生徒があっちに行ったりこっちに行ったり。
たくさんの人とたくさんのすれ違う。
その中で、見つけてしまう君の姿。
頑張れ、と心の中で強く思った。
……自分がわからん。
16,届かないパス
「えーっと、野球の第一試合は…、第一グラウンド9時半からか…」
朝配られた今日の予定表をポケットから取り出す。
藤堂に応援にこい、と言われたので、時間を確かめる。
今は9時15分。まだ時間はあるな。
何もすることがなく校舎の外をうろうろしていると、
「沙織!!」
「……一真。」
丁度校舎の裏側に入った時、名前を呼ばれ振り向けばこちらに向かって走ってくる一真の姿。
「…どうしたの?」
「あ、いや…その…」
「…?」
ちょっと焦ったようにあたふたする彼。何がしたいのかさっぱりだ。
「あ、あのさ!俺がでるサッカーの試合、見に来てくんね!?」
「え、…」
「絶対勝つからさ!な!?」
「…うん。……別に良いけど。」
「マジで!?ありがとう!もう始まるから、行こうぜ!!」
「え、ちょ、待って。その試合何時から?」
「9時半からだけど?第二グラウンドで」
「え、…あー。…ごめ「一真!お前こんなところにいたのかよ!もう始まるぞ!早くしろ!」
一真には悪いが、先に約束した人のもとへ行くのが筋だろうと思い、断ろうとしたところで誰かに声を奪われた。
それは一真と一緒にサッカーの試合に出ると思われるクラスメートの人で。
「わりぃわりぃ。今行く!ほら!行くぞ!」
「え、ちょッ!!」
そのまま手を引っ張られある意味強制的に第二グラウンドへ。
―--
「平助―!始まるぞー!」
「…おう。」
沙織の姿がない。もう試合は始まるのに。
きっと、どこかで見ていてくれているだろう。
半ば、自分に言い聞かせて俺は試合に臨んだ。
「藤堂!何やってんだー!集中しろ―!」
「…っるせぇな」
全然集中できない。本気も出せない。気付けば俺はいつだってアイツの姿を探していた。
あ"−!!もう!!
集中しろ!!俺!!
それから全然点も取れないで約5分間の休憩に入った。
「平助君どうしたの?」
ベンチに座っている俺に話しかけてきたのは千鶴だった。心配そうな顔をしている。
「……なぁ、千鶴。…沙織、どこにいるか知ってるか?」
「沙織ちゃん?…沙織ちゃんなら第二グラウンドでサッカーの試合見てたよ」
「え、…」
…何でだ?
確かに朝俺は言った。「見に来てくれ」と、
そしてあいつも言った「いいよ」と。
約束したことを忘れた、なんて思えなくて。
どんどん黒い感情が生まれてくる。
イライラが募ってきて、貧乏揺すりをしようとする足を必死で止める。
何で、あいつが来なかっただけで俺はこんなにも動揺しているんだ?
「休憩タイム終了。選手の方はポジションについてください。」
審判の人が言った。重い足取りで俺はグラウンドに入った。
―--
「はぁッ……はぁ……。嘘。…終わっちゃった…?」
あれから抜け出すことはできなくて、終わってからすぐ第一グラウンドに向かえばもうあたしのクラスの試合は終わっていて、次のクラスの試合が始まっていた。
「あ!とう、…どう…。」
「…」
こちらに向かって歩いてくる見覚えのある髪の色。
その足取りは重く、遅く。
負けたんだ、そう思った。
「藤堂、あの…。」
「…何?」
「ッ」
発された言葉は重く冷たく鋭くて。
「……その「負けたよ。」…」
雰囲気からして分かってたことなのに、凄く悲しかった。
「……何で、…来てくんなかったの?」
「ッ……ごめん。」
「……サッカーの方見に行ってたんでしょ?」
「!…なんで、知って……。」
「……本当にそうだったんだ。」
「ッ」
全部あたしがいけない。そんなこと分かってるんだ。
でも、…こんなの藤堂じゃない。
罪悪感が溢れてきて。
「…藤堂、本当「次、バレーの試合でしょ?」…うん」
「…頑張って。じゃ。」
そう言って、彼はあたしの横を通り過ぎていった。
溢れ出てきそうな涙をこらえて、走って体育館に向かった。
悲しみを
ボールに込めて
(泣いたのって、)
(久しぶり…じゃないな。)
(あの時もあいつのコト)
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平助君にあんな態度取られたら、私不登校になります←