喧嘩対処法
□素直になれよ、
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走って、走って、屋上に向かった。
扉を開けた瞬間、ぶわっと大きな風が私を襲った。
「ッ…はぁ…はぁ……」
9,素直になれよ、
サボってしまった。16年間生きていてサボったのなんて初めて。
サボるのは結構良い気分だと聞くが、全然良い気分ではない。
「あー、あたしって、こんな泣き虫だっけ?」
知らず知らずのうちに零れ落ちる涙は止まることをしらぬよう。
そのまま寝っ転がって瞼を閉じた。
「ッ!!いま何、時…?」
学校のチャイムで目を覚ました。周りを見渡したら空はもうきれいなオレンジ色に染まっている。屋上から見える校庭では、野球部が片付けを始めていた。
「もうこんな時間…。」
かなり眠ってしまった。
「……帰ろ。」
覚束ない足取りで、教室に向かおうとしていた時、
「日向さん」
「…何?」
「ちょっと来てくれる?」
また、あの女。
付いて行けば、昨日同様体育館裏へ。
ドンッ
「ッ」
壁に押し付けられた。
「……何?言われた通り関わってないでしょ?まだ何かあるの?」
「頑張って関わらないようにしていることは褒めてあげるわ。だけどね、あのお昼休みの時、あなた平助君に酷い口きいたわよね?あれが気に食わなくてね」
そう言って、お腹を一発殴られた。
「うっ」
「……次、平助君にあんな口のききかたしたら本当に血が出るわよ」
とどめに水をかけられた。
「じゃ。」
これこそドヤ顔というのだろう。そんな表情をして彼女は帰って行った。
藤堂にあんな口のきき方をしたから?
何それ。何それ…。
アイツにどれだけ行動を制限されなきゃいけないの?
これはあたしの人生だ。
“自分に素直になった方がいいんじゃない?”
沖田先輩に言われた言葉。素直に?あたしはどうしたい?
藤堂と普通に、今まで通りの関係でいたい。
避けるなんて、関わらないなんて、嫌。
気付いたら走って教室に向かってた。
「はぁッ…ッと、藤堂…!」
「日向お前今まで…、てか、なんだ!?その格好!」
教室に行けば、藤堂がまだいた。びしょ濡れのあたしの格好を見て、驚いている様子だ。
「藤堂!!」
「は、はい!!」
あたしがいきなり名前を呼ぶもんだから、彼はビックリして“良い返事”をした。
それにちょっと笑いそうになるのをこらえて、
「その…、お昼休みの事…なんだけど、」
「あ〜、あれか……、なんか俺、余計なことしちまったみたいだな…。ごめ「ち、違うの!!」え…」
決めたの。ちゃんと自分と向き合う、って。自分の思うままに。
「ご、ごめんなさい…。」
「…」
「あれ、嘘だから。藤堂が頼って、って言ってくれた時、本当は凄くうれしかった。あたしまだまだ弱くてさ、怖くて。慣れてる、なんて言ったけど、本当は怖い。誰かに助けてほしくて。…でも、自分に正直になることなんてできなくて…、あんなこといっちゃって、…ごめ「もういいから」…ッ」
再びあふれ出てきた涙を隠してくれるように、彼はあたしの後頭部を押さえて、自分の胸にそっと寄せた。
「…よく我慢したな……。」
「ズッ……ッ」
あー。もう。
こいつの前で泣くなんて、本当はしたくなかったのに。
でも、ちょっと嬉しい、と思ってしまうのはなぜだろう。
我儘ですよ?
(ありがとう、)
(ほんと、それだけ)