舞菊〜黎明録〜
□練
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“浪士組”として迎え入れられた近藤一向は八木邸に収容されことになったのが、この大人数だ。幹部以外が大部屋で雑魚寝になることは必然的。
「にしても、腕試しもせずに入隊なんておかしーんじゃないの?」
縁側に腰掛けて茶を啜る沖田さんと近藤さん。
近藤さんは良いとして・・・沖田さん、貴方は茶を飲みながらその台詞を吐くのか?腕試しとか言うなら鍛錬すればいいのでは?
そう思ったのは私だけではなかったらしい。案の定、のんびりと茶を飲む沖田さんに、土方さんが声をかけた。
「総司、ンなこと言うなら素振りの一振りでもしやがれ。」
素振りをしながら怒鳴り声をあげる土方さん。そういうところは、やはり土方さんと言うべきか。初日から自主的に鍛練するとは・・・本当に生真面目というか、なんと言うか。
まあ、この人のおかげでこの団体は“締まる”のだと思う。逆に、土方さんなくしてこの団体は“締まらない”
ボケっと土方さんの素振り姿を眺めていたら、四角となる背後からにゅっと手が伸びてきて。
「・・・っ!!」
驚いた私は、瞬時に腰に挿した刀に手を添え、身構える。だけど、腕をのばしてきた原田さんはそんな私の様子など気にも留めず、床の上に散らばった物体に指をさす。
「ところで菊丸、お前さっきから何やってるんだ?」
「あ、あぁ・・・」
後ろから現れられると落ち着かない。
一歩間違えれば“癖”で原田さんの首を落としてしまっていただろう。
私は気付かれないように深く息を吐きだして、淡々と告げた。
「・・・まきびしモドキ、ですかね。」
先程から小刀で木の破片を削っている私を不思議に思ったのだろう。原田さんの声で他の連中まで集まって来る。
「手慣れたものだな、秋月君。」
感心、感心と言いながら背中越しに眺めてくる近藤さんの表情は柔らかい。だがこれは敵対する相手にぶつけたり、地面にばらまいて逃げる時間を稼ぐ為の物。けして、感心するようなものじゃないだろうに。
「菊丸君、よかったら僕に少し分けてくれない?」
「構わないが・・・良からぬことを企んでないか?」
ほんの少しの時間しか言葉を交わしていないけれど。なんとなく、沖田さんに危険物を持たせない方が良い気がする。
「ンー・・・」
削り終えた棘の塊を渡し渋っていると、間に誰かが割り込んできた。
「おい、総司・・・てめえ。」
割り込んできたあげく、沖田さんの胸倉を掴んだのはやはりこの人、土方歳三で。彼は鬼の形相で沖田さんを睨みつけている。
「僕は何も企んでなんていませんよ、土方さん。疑り深い男は女に好かれないと思うけど。」
「余計な御世話だ。」
土方さん・・・眉間に皺をよせないでくれ。百発百中、被害を受けるのは貴方でしょうから気持ちは分からなくもないが。貴方の顔見た連中がちびりそうだからさ。
「京に来ても、二人は変わらねーな。」
和やかに微笑む原田さんには悪いけれど、止めに入ってもらえませんか?
土方さんの一声に素振りする気になるくらいの意欲はあるんだろう?
貴方の素敵な、その腹筋で万事解決してください。私は傍観者Aだから。