夜空の翼

□変わりゆく世界(第4話)
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「ただいまー。」


見慣れた玄関を通り、台所へと歩いていく。


「あら、おかえり。お腹が減ったでしょう?ご飯にする?」


おばさんの優しそうな声。
もうこの声を二度と聞く事はないのかもしれない。
一瞬、口に出そうか躊躇したが、ザンザスとの約束を破るわけにはいかない。
オレは意を決しておばさんに訪ねた。


「なぁ、おばさん。オレ、ボンゴレっていうマフィアに行きたい。」


その途端、ガシャーンと大きな音を立てて皿を落とすおばさん。
流石のおばさんも驚きに満ちた表情でこちらを見つめる。


「それは、本気なの………?」



弱々しく出される声。でも、オレもこんな所で止まってなんかいられなかった。
我が儘なのは分かってる。だけど、オレはー……、



「自分が選んだ道を、進みたいんだ。大切な人を守るために。」



いつからか、オレの中の一番は、おばさんでもおじさんでもなくザンザスになっていた。

呪われた炎を使うオレに、不器用ながらも優しく手を差し伸べてくれたザンザス。
あの時、オレが一生付き従うべき人間はコイツなのだと直感が告げていた。
おばさんは、悲しそうな表情を一瞬見せたあと、柔らかく笑った。


「あなたがそれで幸せだと言うのなら、私たちは止めないわ。ねぇ、あなた?」


おばさんが振り向いた視線の先には、先ほどから聞いていたのか複雑な表情を浮かべるおじさん。
おじさんはオレを一瞥した後、ゆっくりと天井を見つめながら言った。


「お前は、それで本当に幸せになれるのか?」


オレにとって、幸せがどんなことなのかまだ分からない。でもー、


「大切な人が傍にいるだけで幸せだよ。」

「………そうか。」


おじさんとおばさんは一回顔を見合わせた後、オレを優しく抱き締めた。
ザンザスとは、また違う感じでー。

「いってらっしゃい。私たちは何も止めないから、安心して。」
「だが、何かあったらすぐおじさんたちに言うんだぞ。」


優しく抱きしめてくれる二人に、思わず涙線が緩む。
こんなにも、自分は愛情を注いでもらっていたのだ。
今考えれば、昔から自分は一人じゃなかったかもしれない。
おじさんとおばさんが、いたからー。


「ありがとう、お父さん、お母さん。」


自分の本当のお母さんはおばさん達じゃなくても、今だけは、こう呼びたかった。
最後だからこそ言える言葉。
おばさんとおじさんは、それに涙を流しながら頷いていた。
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