夜空の翼

□黒に染まった世界(第1話)
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イタリアの下町で生まれ、育ってきたエマル。
母親は貧乏な暮らしながらも、一人で必死にエマルを育ててくれた。



エマルはそんな母親がとても大好きだった。

いつも、自分の尊敬する人は、と聞かれると真っ先に母さん!と答えるほどだった。



しかし、そんな母親も数ヶ月前に他界。やはり、今の生活では耐えきれなかったらしい。




その後、エマルは何を教えられる訳でもなく、親戚の家に引き取られた。


最初は警戒していたエマルだったが、おじさんもおばさんも、とても優しい人達だった。


そんな二人にいつしかエマルも心を開き、今でも貧乏だが平和に暮らしている。


だが、いつ頃からだったろうかー。

エマルの手には漆黒の炎が灯り、近所の人達は気味悪がって誰一人、エマルに近づこうとさえしなかったー。


だがエマルにとって、正直そんな事はどうでもよかった。
しかし、暴力を振るうということは話が別だ。



痛いのは嫌だし、何よりおじさんとおばさんに迷惑をかけてしまう。



エマルは、朦朧とする意識の中そんな事を考える。


ーああ、オレ、もうこのまま死ぬのかなー、



そんな不吉な考えが頭をよぎった、その瞬間、



ーガアアアアァン!!ー


気がつけば周りにいた少年達は倒れ、代わりに真っ黒な黒髪の少年が立っていた。



「だ、……れ?」


ハア、ハアと荒く呼吸を繰り返しながらも、エマルは振り絞るように声を出す。
ぼやけた視界の中で映るのは、自分より少しぐらいしか違わない黒髪の少年の姿だった。


「…………ふん、」


しかし黒髪の少年はエマルに目もくれず、さっさと立ち去ろうとした。



「まっ、……まって………!」


必死に立ち上がろうとするエマル。
しかし、暴力を受けて弱りきった体は、動くことなくその場て崩れ落ちてしまった。



「てめぇ、一人で歩けねえのか。」
「あ、歩けるよ!このぐらいのケガ、どうってこと……!」
「………乗れ。」



見栄をはるエマルだったが、黒髪の少年はハァ、とため息をつくと
エマルに視線を移したまましゃがみこむ。



「乗らねえのか。」
「の、乗る!」



そう言って黒髪の少年はエマルを乗せたまま、ゆっくりと歩き出した。
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