お題2
□ふたりで逃げよう
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『伊達ってイジメのターゲットにされてるらしいぜ?』
のんびりと過ごしていたはずの昼休みが一変した。
何時もは一緒に食べている昼食も、今日は行くところがあるからと誘いを断られたところなのだ。
まさかと顔から血の気が引く。
気付いた時には全速力で走り出していた。
ベタだとは思ったが最初に向かったさきは体育館裏。
人目にも触れにくいうえに、全くと言っていいほど人通りがないのだ。
「はぁ…っ、ハ…まさ、むね…っ?」
辿り着いたそこには人の気配が全くと言っていいほどなく、静寂だけが広がっている。
恐る恐る先へと足を進めればチラリと視界の端に映った人影。
胸が鷲掴みにされたようにぎゅっと詰まり、駆け寄った足は震えている。
「━━っ」
映った光景に目を見開いた。
ヒュウヒュウと空気が抜けるような呼吸音。
空気を取り入れる為に薄く開かれた唇は切れて赤く染まっていて、綺麗に整った顔は赤く腫れ、切り傷や打撲の痕が痛々しく主張していた。
「政宗!」
慌てて抱き起こせば閉じられていた一つ目がゆっくりと開かれる。
次いで驚きに大きく開かれる瞳。
「も…と、ち…か…?」
「お前馬鹿だろ!何で言わなかったんだよ!?」
気づけば声を荒げて怒鳴っていた。
「な…にを…だ…?」
変な元親…と絶え絶えに呟いて笑う。
その姿が今にも消えてしまいそうでつなぎ止めるように抱きしめた。
「なんで、イジメにあってるって、俺に言ってくれなかったんだよ…」
「んなの…」
背中に回された腕にぎゅっと力が籠もる。
「イジメに、ッなんか…はい、ん…ねぇ、よ…」
「な!?十分イジメだろ!!」
「はは…そかな…?でも、真冬に、いろんな奴らに無理矢理ヤられるより、マシだと…思わね…?」
「なん…、」
自嘲するように笑った政宗に、絶句することしかできなかった。
全く気づかなかったのだ。
そんな過去があったことも、今受けている現在も。
「なんで、人を頼らねぇんだよ…」
「こんなの、自分の問題じゃねぇか」
「だからって!」
「じゃあ!!アンタは言えるのか!?男が男に押し倒されて犯されました、なんて、アンタなら言えんのかよ…っ!」
「っ」
「俺だって考えた!アンタと付き合えることになったときも、言うべきか迷った!でも、んな…汚れた俺じゃ…嫌われるって…」
噛みつかんばかりの勢いで叫んで一気にまくし立てる。
けれど、言い終えたかと思えば力無くにすり寄ってきて、嫌いになった…?と俯いていた顔を上げた。
それを優しく抱き止めて、ならねぇよ、と腕に力を込めてやれば小さな嗚咽がもれただした。
政宗の中のコップは、もう許容量を超えて溢れ出しているのだ。
漠然と、これ以上の傷がつくようなことがあれば政宗は壊れてしまうと、そう思った。
俺が、楽にしてやらねぇとって、自然と決意が固まった。
「なぁ政宗。」
「…ッ、ん…?」
「2人で、どっかに行くか。俺の地元でもいいしよ。四国はいいとこだぜ?」
どこか遠くに、二人で。
そっと体を離して目元に口づけて、揺れる瞳を覗き込む。
「どうする?」
「……行く。」
ちかと一緒なら。
か細い声は震えていて、きっと不安なんだと思う。
それでもふにゃりと笑って、連れて行ってくれと笑う政宗に愛おしさが募って。
赤く切れてしまった唇を一度舐めてから、次はガラスに触れるようにソッと重ねたのだった。
-END-