短編

□逃避行
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「なぁ幸村」
「はい?」

クイッと遠慮がちにシャツの裾が引かれて、其方に顔を向ければ少し躊躇いがちに揺れる隻眼があった。

「政宗殿?」

「……たぃ」

「はい?すみませぬが、もう一度…」

「屋上に行きたい。」

今度ははっきりと言われた言葉に目を丸くした。
滅多に甘えない政宗の、小さなお強請り。聞かないはずがない。

「勿論です。」

にっこりと笑って政宗の手を取った。





「Ahー…、やっぱり外の空気は美味いな。」
青く澄んだ空に向かって背伸びをしながら言う政宗に「そうでございますなぁ」と同じように背伸びをしながらのんびりと相槌を打った。

暫く何をするわけでもなく空を眺めていたが、政宗がくるりと幸村の方へと反転して。向き直ったと思えば、今度は幼子が親に甘えるように抱きついてきた。

「政宗殿!?」

あたふたと手を彷徨わせるが動く気配のない政宗に、短く息を吐いて抱きしめ返した。

「なぁ幸村…」

「はい」

「此処から飛び降りたら、楽に死ねんのかな」

「――…っ」

か細い声だった筈なのに、異様に大きく響いた。





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