異能力症候群

□プロローグ
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ラジオからの声が、また耳に入り込んでくる。

『―もう一度お伝えします、生存したのは、5歳の綾神(あやがみ)…』

その時だった。


――カッ…


突如目の前が閃光に包まれ、辺り一面が真っ白になり、何も見えなくなった。

「なっ…何だ…!?」

バリバリバリッ

もの凄い轟音が鳴り響き、車が激しく揺さぶられる。

「……っ、!!」

「キャーーッ」

―何が起きたか、全くわからなかった。

―轟音と、母の叫び声。

―目がくらんで、何も見えない車内。

父は混乱し、思い切りハンドルを切った。


そしてその後――

ドカッ…

激しい振動と共に、車からは黒い煙と真っ赤な炎が舞い上がった。

「…くっ…。愛、無事かっ?!」

「…貴方っ…、」

父と母の二人は上手く抜け出し、急いで車から離れた。

「―勇は…?」

ハッとした父は青ざめながらうろたえる。

燃え上がる車から勇の姿は確認できない。


「…さあ。トロいから、まだ車の中じゃない?」

「…け、けいさつ…きゅ、救急車を…、」

「もう助からないわよ。見てよ、あの後部座席。ペシャンコ。」

見ると、確かに車は、ちょうど後部がガードレールに激突し、つぶれている。


「ところで、なんなのよ一体…なんで雷が落ちたのよ、雲一つないのに!」

母は感情を昂らせ、声を張りあげながら先程までしっかりと掴んでいた鞄を思い切り地面に叩きつける。

先程の爆発音とその声を聞きつけ、やがてだんだんと二人の周りに人が集まってきた。

「あーもう何なのよ!見せ物じゃないのよ!あっち行ってよ!もう、何でこうなるの?!貴方がしっかりしてないからじゃない?!」

母はより一層声を張り上げ、父を睨みつける。

父は「そんなこと言われても…、」と泣きそうな顔で母を見る。


「あのー…、」

その時、人だかりの中の一人が恐る恐る二人に話しかけてきた。

「何よ!」

母は目を血走らせながら勢いよく振り向き、その男をも睨みつける。

男はたじろぎながらも、静かに口を開いた。

「この子…そこに突っ立ってたのですが…。お宅のお子さんでしょうか…?」

「え?」


男が肩を押さえ支えている少女は、間違いなく勇だった。

勇の顔身体には傷一つなく、服には焦げた跡すら見当たらない。ましてや、何があったのか全くわかっていないということが表情から読み取れた。

「勇…、」

父は目に涙を浮かべ、その場にへたりとしゃがみこむ。
足の力が自然と抜けてしまったようだった。

「無事…?なんでよ…、」

母は喜ぶどころか納得のいかない表情を浮かべている。

「…うん…、よくわかんないけど…、アタシ…いつの間にか車の外にいて…。」

「シートベルト…してたのにか…?」

そう、座席から衝突しただけでなく、彼女は座席にシートベルトでがっちりと固定されていたのだ。
そう簡単には脱出できないと考えて当然だろう。

「…うん…。」

――よくは覚えていなかった。
でも、何故か無事だったのだ。

座っていた場所は、ペシャンコになっていたけども…

気付いたら、勇は。

燃え上がる車を、5メートル程離れていたところから見ていた。



「……超能力よ…、」

「…愛?」

父は怪訝そうに母の顔を覗きこむが、母はそれにまるで気付く様子はない。

そして、母は笑顔で歓喜の声をあげた。

「この子…テレポートしたのよ……!!!」


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