TENDER LOVEU

□Chapter 37-side.taemin-
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 今日の月は銀色で。
 澄んでいて。
 寂しいような、悲しいような。
 僕の傷みを、晒されるような。
 そんな、永続的な静けさを感じさせる、光。

 僕は、ベランダへと溶けていく。
 このまま消えて、なくなりたい。
 そう思うのは、間違いなんだろうか。

 手すりを掴んだ手に、その感触を感じる。
 冷たく、固く、不変的な質感。

 ヌナを想ったとき。
 何かが構築されると、期待して。
 結局叶えられたものなんてなくて。
 そうして終わりを、促したのに。

 最後の夜には。
 あまりにも甘過ぎる、愛しい声を。





「どうしたの・・・?」

 背後の声に、発してもいなかった言葉を、失う。

 ごめん、ヌナ。

「今は・・・ひとりがいい。」

 来ないで。
 見ないで。

 平穏に、眠っていて。

 僕は・・・

「泣いてる、の・・・?」

 気付かれたく、なかっただけなんだ。
 ただ、ヌナに。

 どうしてそれすら、叶わないんだ。

「泣いてないよ・・・」

 声は、震える。

 ヌナは触れたその手をしっかりと僕に着けた。
 そして僕の隣に、静かに立った。

 僕の頬に両手を添えて。
 少し背伸びして。

 涙の筋に、キスをする。

「どうしてそんなことするの・・・」

 僕はたまらなくなって、抱きしめた。
 月光で、青白く滑らかに輝く、その素肌を。

 決心は、鈍らないんだ。
 終わらせるつもりで、いるんだ。

 でも、そのサヨナラを。

 明け方の空の天辺に、冬の星が吸い込まれて終わるまで、延ばしても。
 それは、許されるだろうか。

「ねぇヌナ、どうして・・・」

 その首筋に、顔を埋める。
 彼女のカラダに、僕の声を響かせるように。

「・・・さっき、僕の名前を呼んだの。」

 彼女はさっき、ベッドの中で。

 KEYヒョンの名前ではなく。
 僕の名前を、口にして。

 今になって、尚。
 僕の心をとらえて離さないよう。
 甘い罠に、嵌めようとするんだ。

「僕の夢でも、見てたの・・・?」

 涙で、笑顔も、それらしさを失って。
 それでも僕は、必死に。
 イタズラに、笑おうと。

 でも彼女の視線は、痛々しいほどに。
 切なくて。

 僕の分も、背負えるなら背負おうとしているようにも、映って。

「テミンのこと、考えながら眠ってたからだよ・・・」

 笑い飛ばしてくれないと。
 僕はこの夜を、涙で、失いそうで。

 でも、彼女は凛として。
 淡々と、真実を述べてくれるんだ。

 溜まらない想いばかり。
 僕の中で生きる。
 それがどうにも、堪らなくて。

「テミン・・・」
「好きだよ、ヌナ。」

 僕はまた。
 抱きしめるんだ。
 静と動を持ち合わせた抱擁を。
 君に捧げるんだ。

 それは、終焉の覚悟を、可視にしたもの。

 純粋なフリをして、想い続けていればって。
 ヌナの傍を維持しようと必死になるのも。

 ヒョンがヌナをどんなふうに想っていても。
 重ねた時間に比例するならって、躍起になるのも。

 もう、終焉だ。

「好きだから、もうやめるよ。」

 僕を傷付けたと、ヌナが思うから。
 ヌナが傷付いて、僕はそれでまた。
 
 傷を、負うんだ。

「最後にしよう・・・」

 僕は知らなかった。

 好きな人の隣にいるのに。
 それでも孤独が浮き彫りになるなんて。

 何が起きても、貫こうとしたこの想いを。
 甘く切なく、執拗なまでのこの気持ちを。

 あっさりと、断ったのは。

 眠りについた彼女の口から発せられた、彼女の僕への最後のプレゼントが。
 泣けるほど幸福な終わりを、もたらしてくれたから。



 君は。
 始まりから、終わりまで。
 全てを僕に、与えてくれた人。
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