TENDER LOVEU

□Chapter 36 -side.taemin-
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***

 国語のときに、先生に当てられて、渋々読むような。
 そんな表情だけれど。

 声のトーンは、教えてくれる。
 彼女がこの詩を、とても長い間、愛してきたことが。

 行間を。
 文体の香りを。
 とても長い間、大切にしてきたことが。

 詩は、タイトルの通り。
 てんでバラバラな、7つの詩から成り立っていた。

 3〜4行のもあれば、その倍くらいのもあって。
 彼女は、明朝体の古めかしい文字を、辿っていく。

「ヌナの好きなのは、どれ?」
「えーと・・・これ。読んであげる。」
「うん・・・」

 彼女の肩口に、顔を埋めて。
 その声の振動を、感じる。

『幸福についての、7つの詩

 あなたが
 あたらしい歌を
 ひとつ覚えるたびに
 どこかで誰かが
 木の匙やお友だちを
 失くすとしたら?

 あなたが
 もし幸福を手に入れたら
 どこかで誰かが
 病気になるとしたら?

 それでもあなたは
 私を愛すと言いますか?』

 彼女の紡ぐ、文章のひとつひとつが。
 僕を柔らかく、包むように。
 一方で鋭く、責めるように。

 ・・・それでも、君を愛すって。
 言うつもりだった。
 言えると思ってた。

 夜が来ても。
 明日が来ても。

 僕が語るのならば、幸福は。
 彼女と一緒に、いることだった。

 彼女が望む、全てを。
 与えられるのは、僕がよかった。

 でもそれは、きっと。
 幸福じゃ、ないよね。

 オレンジ色の光の線が、細くなって。
 闇の程度が濃くなった目下の街。

 どうしてこんなに。
 泣きそうになってばかりなんだろう。
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