TENDER LOVEU
□Chapter 36 -side.taemin-
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カレーの匂いに包まれた部屋から、一歩外に出ると。
ベランダは、澄んだ夕焼け色をして。
この街をずっと、優しく包んでいた。
優しさは切なさと、表裏一体。
そして黄昏は、切なさの鏡のように。
僕を、照らし出す。
今日が、終わる。
君が、目を細める。
「ヌナは今日、何をしてたの?」
できるだけ多くの言葉を、君と交わそう。
感触で。視覚で。聴覚で。
五感が君を、感じれば。
その分君を、深く刻める。
「ここで、本を読んでたの。」
「何の本?」
「昔、好きだった本。久々に見つけたから。」
ベランダに置きっぱなしだった本。
それを取る、手は。
黄昏のような手つきで。
僕はそれを、眺める。
切ない心持ちで。
「読んで〜」
「えー・・・」
両腕でヌナを捕まえて。
肩越しに、本をのぞく。
「“幸福についての、7つの詩”・・・?」
「そう。短い短い、7つの詩が載ってるの。」
「はい、じゃあ読んで。」
「・・・読みたかったら、貸してあげるよ。」
ヌナは少し、ばつが悪そうに。
「いいじゃん、読んでくれても。」
「なんかイヤ・・・」
しぶとい、ヌナに。
その耳元に。
唇を近付ける。
「・・・読んでくれないと、ここで脱がすから。」
「いつそんな悪知恵覚えたの・・・!」
「僕も、男、だからね。」
「ちょ、ちょっと待って・・・!わかったから!」
イタズラに忍ばせた手を、ゆっくりと引き抜く。
本当に、僕より年上なのかな・・・
赤くなっちゃって、かわいいなぁ。
そして、僕は。
終焉を夕日の向こうに感じながら。
ヌナの声に。
耳を澄ませる。
僕の聴覚を。
ただ、魅了して。