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□少年Aの主張
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教育実習の担当クラスは1年9組、担任の先生からは明るく良いクラスだと紹介された。
確かにそうだと思う。男子も女子も仲が良くて、よくなついてくれてかわいらしい。高校生なんて多感な時期だし邪険にされたら悲しいなぁとかいう不安はすぐに吹き飛ばされた。ただ、それとはまた違う不安要素がひとつ。
「だぁーかーらー!!」
「シーッ、シーッ!!」
大声を出す田島くんを静かにしようと必死に人差し指を口元に当てる。
それでも言葉を続けようとする彼の口を思わず両手でふさいでしまった。こんな会話、もし先生方や生徒に聞かれたら何を言われるかたまったもんじゃない。
「お、お願いだから静かに、ひゃっ!!」
ペロリ、手のひらを生暖かい温度が伝って彼が舐めたんだとわかった。もう、田島くん!と思わず大声を出すとシシシと笑う。
「先生のこと本気で好きだって言ってんのに!」
「あのね田島くん、さっきから言ってるけどね、」
まわりにいっぱいピチピチの女子がいるんだから、わざわざこんなおばさんに好きだなんて言わなくても。
ため息がちにそう言うと、俺は先生が良いって言ってんの!と勢いよく言う。嬉しいけど、それは一時期の気の迷いってやつだよきっと。実習期間が終わって私がいなくなれば、そのうちあれは恋じゃなかったって気づくんだろう。なんとなく寂しい気はするけど仕方がない。いや寂しいってなんだ寂しいって。まるで忘れられたら悲しいみたいじゃないか、それって。
「じゃあさじゃあさ!野球部の練習見にきてよ!」
「ああ、野球部なんだよね田島くん。」
「うん!俺4番なんだぜ!」
わかったわかったと適当にごまかす。
後日、ふとのぞいた野球部の練習でカキーンと金属音が響いたと同時に「先生ー!!好きだー!!俺と付き合って!!」とグラウンドに響きわたる声で叫ばれ血の気が引く思いをすることになろうとは。
少年Aの主張
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