text2

□帰り道
1ページ/1ページ






センター試験を2ヶ月後に控えた私たち3年生は、野球部の現主将に部室へ呼び出された。
何事かと思っていたら、2年生たちが修学旅行から帰ってきたらしくそのお土産をくれた。お菓子と受験の御守り。がんばってくださいと元気な声で言われ思わず泣きそうになったのは秘密。

そういえば、みんなと居られるのはあと半年もないんだなぁと今さらながら実感する。ふざけ合って笑うみんなの背中を見つめながら、たくさんのことを思い出していた。
マネージャーの私たちにも優しくいつも感謝を示してくれていたこと、山ちゃんや本やんと悪戯してバカみたいに笑ったこと、それを雅やんに怒らたこと、慎吾が彼女と別れる度に練習に精を出すからそれを山ちゃんと笑ったこと、和巳が泣いた、最初で最後のあの日のこと。辛いことも苦しいこともたくさんあったはずなのに、思い出すもの全部綺麗だから不思議だ。


「どうしたの」
「な、なんでもない!」
「そ?」


ならいいけど、と山ちゃんが笑う。
駆け足で山ちゃんと本やんの間に入ると、さっきから苦しかった胸がさらにきゅうっと締め付けられて痛くなった。どうしよう、泣いてしまいそうだ。


「山ちゃん、本やん」
「なにー?」
「どうしたー?」
「手、つないでもいい?」


本やんはしばらくポカンとしてたけど、山ちゃんはいいよー!と手を差し出してくれた。
3人で手をつないでいると雅やんがいつもみたいに呆れてて前ちんは笑ってる、慎吾がいいなー俺も手つなぎたいなと言って、和巳がおまえら仲良しだなぁとかお父さんみたいなことを言う。

みんなと会えなくなるのやだなぁ、そう呟くとみんなが一斉にキョトンと不思議そうな表情をした。いつでも会えるだろ、と雅やんが言う。

本当に?みんな卒業しても会ってくれる?と聞いたら、当たり前だろ来年も再来年もみんなで集まろうなと和巳が言ってくれた。
また明日、はもうすぐ言えなくなってしまう。和巳の言葉がいつかの将来、本当になったって嘘になったって、きっと私は今の自分が確かに幸せだったことをいつまでも思い出すんだろう。









帰り道








.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ