向日葵が咲いた日

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『幸ちゃん!』



部活が終わり、体育館から出てきた頃には外は真っ暗になっていた。


これから帰るのかとぼんやり考えていた時に突然暗闇から聞こえた声。


戸締まりをしていた俺と笠松センパイ以外のバスケ部員はすでに帰宅していた。

他に誰もいないと思っていた俺は、聞こえた声に自然と肩が跳ねた。




『部活お疲れ様。今から帰り?』

「そうだけど…お前、こんな時間まで何してたんだよ」

『先生に資料室の整理頼まれちゃって…。すぐ終わるだろうと思って引き受けたんだけど』

「こんな時間までかかったのか」



笠松センパイと親しそうに話すのは、左右に束ねた綺麗な長い髪を揺らす一人の女子生徒。

特別美人なわけではないけれど、先輩と楽しそうに話す彼女の笑顔はとても綺麗で何故か惹き付けられた。




『幸ちゃん、彼は?』



笠松センパイと話していたはずの彼女は、いつの間にか俺の目の前に立っていた。

俺の方が背が高いから彼女は自然と上目遣いになっていて、その彼女と目が合うと俺の心臓が少しだけ跳ねた気がした。




「あぁ、こいつは…」

『あ、もしかして黄瀬涼太くん?』

「なんだ、知ってたのか?」

『もちろん!幸ちゃん知らないの?黄瀬くん有名だよ』



有名、その言葉にまたかと思ってしまった。

俺がモデルをやってるから、媚びるように話しかけてくる女の子は今までたくさんいた。だから、またかと思った。

この子も俺に媚を売ってくるのだろうか。モデルの黄瀬涼太にしか興味がないのだろうか。




『1年生ですごくバスケの上手い子がいるって、みんな騒いでるよ。入学していきなりレギュラーだもん。すごいよね!』

「…ぇ?」

『………あれ…?…違った?』

「い、え…違わないっスけど……俺のこと知らないんスか?」

『?バスケ部の黄瀬くんでしょ?』



びっくりした。

自分で言うのもあれだけど、一応人気モデルとして活動してるから顔は知れ渡ってると思ってる。
今までの女の子が俺を見て一番始めに言う言葉は「モデルの黄瀬くん」だった。


「モデルの黄瀬くん」と言われなかったのはもしかすると初めてかもしれない…




『ゆ、幸ちゃん…、黄瀬くん固まっちゃったけど…私なにか変なこと言っちゃったのかな…?』

「おーい、黄瀬?大丈夫か?」

「は、はい!大丈夫っス!…あの、俺1年の黄瀬涼太って言います!」

『ふふ、知ってるよ。バスケ部所属の黄瀬涼太くん!』



モデルじゃない、ただの黄瀬涼太として接してくれるのがすごく嬉しくて。


ふわりと笑った彼女を見て、自分の頬に熱が集まるのを感じながらもその笑顔に見とれていた。










いわゆる、一目惚れ



(黄瀬くんってどこかで見たことある気がするんだけど……思い出せない…)

(俺がモデルやってること知らないんスか?)
(こいつ、芸能人とか興味ないから…)
(そうなんスか…、)
 

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