アンダンテ

□黒ずきんちゃん
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ここは、木々が生い茂る林道。


差し込む日光が光の帯の様に連なっていて、耳をすますと鳥や動物達の小さな鳴き声が聞こえます。


そんな光景を横目に、赤ずきんはゆったりと歩いていました。


「静かだな…。」


赤ずきんは気持ち良さそうに目を細めました。


ここだけの話、赤ずきんはこういった場所が嫌いでは無いのです。


けれど足を進めれば進める程、この空気を壊す、何かを木に打ち付ける様な音がして来ました。


段々と大きくなるそれ。


赤ずきんがその音がする方向に目を凝らした。


その時でした。


「アッハッハッハ!お嬢さん、危ないぜよーっ!」


身の危険を感じた赤ずきんは、咄嗟にその場に伏せました。


同時に頭の上を何かがヒュンと通り過ぎ、近くにあった木に鈍い音をたてて突き刺さります。


恐る恐る顔を上げると、そこには木に深く食い込んだ、大きな鉄の刃がありました。


大きさからして、斧かなんかの刃でしょう。


あんな物が飛んで来るとは…。


赤ずきんは背中に冷たい汗が伝うのを感じました。


そんな赤ずきんを知ってか知らずか、ガサガサと草むらを掻き分け、大丈夫がか?と近付いて来る男。


「坂本ォ……。」


赤ずきんはこれでもかと言うぐらい、坂本――木こりを睨み付けました。


「アッハッハ!すまんのぉ。斧なんて使ったことがないきに。」


陽気に笑う木こり。


彼の右手には、すっかり刃が抜けて淋しくなった斧の柄が握り締めてありました。


「強く振ってみたら、刃がすっぽ抜けてしまったんじゃ。」


案外脆いもんじゃのう。と木こりは木に突き刺さった刃を抜き取ると、己が持っている柄に差し込みます。


それを見た赤ずきんは顔を真っ青にしました。


「オイ…まさかテメェ、またその斧使うつもりじゃねぇだろうな…。」


一瞬木こりはキョトンとした顔になりましたが、また明るい笑みを浮かべて言いました。


「まさかそんな訳無かろう?このままだと危ないじゃろうて。」


その言葉に胸を撫で下ろす赤ずきん。


「じゃあ、ワシは仕事に戻るきに。」


「あぁ…。」


またガサガサ草むらを掻き分けながら、元居た場所に戻ろうとする木こり。


赤ずきんもお婆さんの家へと足を進めようとすると、ふと、木こりの溜め息が聞こえました。


「はぁ…。何処にボンドあったかのう?」


「待て毛玉ァァァァァァ!!」


怒声を上げると、赤ずきんは全速力で木こりを追いかけました。
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