アンダンテ
□黒ずきんちゃん
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むかしむかしある所。
森の中の小さな家に、赤ずきんと呼ばれる女の子が住んで居ました。
今日は、病気のおばあちゃんの家にお見舞いに行く日。
お土産が入った籠を腕にかけて、赤ずきんは家を出ます。
右目には包帯、口には煙管を咥えて…
「ちょっと待てゴルァァァァ!!」
草むらから銀髪の狼が飛び出してきました。
「よう銀時ィ…いや、今は狼か。」
「あぁ…、じゃなくって!」
狼はビシッと赤ずきんに指を向けました。
「え、ちょっと待って?なんでお前そんなことしてんの?」
「悪いか?」
「いや、悪いだろうよ!テロリストが赤ずきんちゃんの役するってどうよ?」
「別にどうだっていいだろうが、それにそれを言うならお前だって、随分おかしな役してんじゃねーか。」
そう言うと、赤ずきんはまじまじと狼を見ました。
狼は着ている物はいつも通りですが、彼の頭と腰には彼の髪と同じ、銀色の獣耳と尻尾が生えて居ました。
「ったく、何を狙ってんだか。」
「いや、何も狙ってねーよ!」
「つーか、お前の頭のてっぺんに付いてる耳と顔の横に付いてる耳、どっちが本物よ?」
「どうでもいい!凄く!」
はぁ、と狼は溜め息をついて、自分の頭に生えた耳をひと撫でしました。
「本当有り得ないわ…なんでこんなことになったんだ……って高杉ィ!?」
狼さんは足早に去ろうとしていた赤ずきんを引き止めます。
「しつこいぞ天パ狼。」
ドスの効いた声を響かせて、赤ずきんは振り返りました。
「ガラ悪っ!何なのこいつ!?赤ずきん演っていいキャラじゃねーよ!」
そこで狼は、自分が言いたいことからずれて行っていることに気付き、コホン、と咳払いをすると赤ずきんに言いました。
「お前何処行くつもりなの?まさか、お婆さんの家だとか言わねぇよな?」
「そうだが?」
赤ずきんは顔色一つ変えずに言いました。
反対に狼の顔はみるみるうちに青ざめて行きます。
「え…やるの?やるつもりなの?」
「何か問題あるか?」
「だって、赤ずきんって…テロリストが、銀魂史上一位、二位を争う悪役のお前が!?」
慌てふためく狼を、呆れた表情で見る赤ずきん。
「あのな、此所は赤ずきんちゃんという物語の中。ならば出られる方法は唯一つ。」
赤ずきんはニヤリと笑いました。
「この物語を終わらせることだ。」
「終わらせる…こと?」
納得行かないのか、黙り込む狼。
そんな狼を尻目に、赤ずきんはお婆さんの家と続く道を歩き始めました。
そして、一度振り返って狼に一言。
「まぁ、そう言うこった。テメーもちゃんとやれよ!」
「…あっ。ちょっと待てって!」
慌てて狼は赤ずきんの方を見ましたが、もう既に赤ずきんの姿はありませんでした。
「…マジでやるつもりなのかアイツ…。」
ぼーっと赤ずきんが消えた方向を見る狼。
実は、狼が納得していないのは、物語を完結させれば此所から出られるという推測では無く。あの凶悪なテロリスト、高杉晋助が文句一つ言わずに赤ずきんという女々しい役…というか、女の役をしていることでした。
「ぜってー何か企んでやがる…。」
けれど、この物語を完結させなければ、此所から出られる可能性はきっと無い。
そう思った狼は、渋々お婆さんの家に向かうのでした。