アンダンテ

□夕暮れ讃歌
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「銀ちゃんと新八まだアルカ…。」



河原の土手にポツリと座っている少女、神楽は溜め息混じりに呟いた。



さっきまでもっと高い所にあった筈の太陽が、今ではオレンジ色に風景を染めながら、地平線に沈んで行こうとしている。


河辺で元気な声を響かせて遊んでいた子供たちも、バイバイとお互いに手を振って自分の家へと帰って行く。



そんな彼らの背中を目で追いながら、また一つ神楽は溜め息をついた。







数時間前のこと。



依頼を受けた万事屋一行は隣町に来ていた。依頼の内容は「猫を探して来て欲しい」というごく単純な物で、猫が特徴的な模様をしていたせいか、すぐに見つけることが出来た。



が、問題は猫ではなく依頼主だった。



「あれぇ…どこにしまったかのう?」



カタカタと音をたて、依頼主の爺さんは箪笥を開けたり閉めたりしている。話によると依頼料を予め用意していたのだが、何処にしまったのかを忘れてしまったらしい。



「本当に分かんなくなっちゃったんですか?」と新八が問えば



「本気と書いてマジで分からん。」という、爺さんの返事が返って来る。


それを聞いた銀時が、ピシリと額に青筋を浮かべた。



「うん。銀さん本気と書いてマジでイラッとした。マジと書いて本気で殴って良いかなこのじーさん。」



「ちょっと、落ち着いて下さいよ銀さん!」



「落ち着いてられっか!もう、一週間も糖分取ってねーんだ!さっさとこの仕事終わらせて、パフェ食いに行くんだよ俺は!」



その言葉で新八は思い出した。



あぁ、そういえば最近、家計が火の車で甘い物我慢してたんだっけ。



「まだ終わりそうにないアルカ?」



この状況を見かねたのか、神楽が不満そうに言う。



「この町案内してくれるんじゃ無かったアルカ?」



神楽はこの町にあまり来たことがなかった。なので、依頼を済ませたら案内する約束だったのだ。


けれど、



「爺さんまだ見つかんないのかよ。」
「見つからんのぅ…。無くした靴下の片方が見つからんのぅ…。」
「誰が靴下探せって言ったよ!?」



新八は溜め息をついた。


「ごめん、神楽ちゃん。まだ終わりそうにないや…。」



だから、と新八は続けた。



「少しだけだけど、お金あげるから見て回っておいでよ。待ち合わせ場所は、さっき通った土手にしよう。」



そう言うと、銀さんには内緒だよ。と唇に指を当てながら、新八は神楽にお金を渡した。



「新八は行かないアルカ?」



新八から貰ったお金を懐にしまうと、神楽が訪ねた。



「あぁ、僕は…。」



チラッと新八は銀時と爺さんの方を見た。



銀時は爺さんと会話が噛み合わないせいか相当苛ついている様子だった。


「…僕は銀さんを見張ってます。このままだと何をしでかすか分からないので。」



新八は苦笑しながら言った。



「そうアルカ…。まぁ、仕方ないアルナ。」



神楽は日除け用の傘を開くと、玄関を出る。



「神楽ちゃん!迷子にならないように気をつけてね!」



新八の声を背中に受けながら、神楽は町へと飛び出した。



そして今に至る。



「…来たらあの馬鹿男ども、とっちめてやるアル」



神楽は膝を抱えた。



こうしていると、なんだか昔の自分を思い出す。


あの頃はこんな風に座って、パピーが帰って来るのを待ってたっけ。



初めは、今では言葉を交わすことすら出来ないあの馬鹿兄貴も隣りに居て。



パピーが帰って来ると、三人で手を繋いで家に帰ったんだ。



ずっと、家族と一緒に居られると思ってた。



でも。



ふいにジワジワと目に涙が溜まって、神楽は袖でそれを拭った。



「ずっと」なんて無いんだよ。と教えてくれたのは、間違なくそのことで。



ふと、頭に浮かんだのは銀ちゃんと新八の顔。



認めたくは無いけれど、きっと来る。



別れの日。



そう思うと、さっきまであれ程憎たらしく見えた二人がとても大切な物に思えた。



「…早く来ないアルカ。」



神楽が呟いたその時だった。



「神楽ちゃん!」



後ろから聞き慣れた声がしたので振り返ると、走って来たのか少し息を切らせた新八と、ポリポリと頭を掻く銀時がいた。



「…っ。」



二人を見た瞬間、鼻の奥がツンとして涙が出そうになった。



それを悟られぬ様に神楽は虚勢を張る。



「…まったく。レディーをこんなに待たせるなんて、本当に駄目男達アル。」



「ごめんね。探すのに結構手間かかっちゃって。」



本当に申し訳無さそうな新八の姿に神楽はバツが悪くなり、もう良いアルと許した。



「それで、ちゃんと依頼料ぶん捕れたアルカ?」


「あったりめーよ。」



銀時がニヤリと笑って、懐から封筒を取り出して見せた。



「さて、もう日も暮れそうだし帰りましょう。」


新八の言葉がきっかけとなって、万事屋は帰路に着く。



神楽は前を行く二人の真ん中に入り、両方の手を握った。



二人共驚いた顔をしたが、手を振りほどこうとはしなかった。



「何だぁ、神楽。手なんか握ったって良いことねーぞ?」



「時には人間、スキンシップも大切ヨ?」




あぁ、神様。



ずっと、なんて我が儘は言わないから。



沢山。一杯。



この駄目人間達と居させてください。



end

ほんわかした感じの万事屋が書きたかったんだ…!
2011 1 23
 

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