アンダンテ
□極彩色の世界
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「私はね、あなた達に沢山の世界を見て欲しいのです。」
暖かな陽光差し込む教室で突然先生は言った。
いつも通りの講義の最中、いつにも増して強く響いた声に自分たちの教本に目を落としていた生徒たちは驚いた様に顔を上げた。
普段教室の隅で居眠りをしている銀時でさえ、しっかりと先生を見つめている。
そんな生徒たちの顔を一通り見回してから、ゆっくりと先生は次の言葉を紡いだ。
「この世界は沢山の事象に溢れています。それは喜び、もしかしたら苦しみ、悲しみでもあるかもしれません。」
けれど、と一旦言葉を切る先生。
「まだあなた達が若いうちに様々なことを体験して欲しい。沢山泣いたり、笑ったり…沢山の色をその目に焼き付けてほしい。」
言い終わった後、どことなく険しかった先生の表情はすでに和んでいて、申し訳無さそうに教本を開いた。
「あぁ…すいません。授業の腰を折ってしまいました。」
さぁ、続きをやりましょうか。そう言ってパラパラと教本をめくった先生だったが、しばらくすると顎に手を当て黙りこくってしまった。
そして、情けない声で言った。
「あれ?どこまでやりましたっけ?」
今でも鮮明に思い出せる。
あの後、すいませんと腰を屈めて最前列の生徒にページ数を聞く先生。
そして、
「松陽先生ぇぇぇええ!!」
首だけになった先生。