「夜明」へ移転しました







 「眠るのかい」と彼の声が鼓膜を優しく揺さぶって、私はそっとまぶたを持ち上げた。白く、淡い、光。消えてしまいそうなその眩しさに私は、ぱちりぱちり、と瞬きをする。唯一の色が彼の髪の毛の深い黒色なのだから、(ああ、これは無彩色の夢なのか)と思う。
 黒、といえば。彼の髪の色、拳銃、スーツ、ああいったいこれは誰の記憶で私は"誰"。私が知っているのは脳裏を渦巻く極彩色の記憶の中でただ佇んでいるのが、今、私の側にいる無彩色の彼だということだけ。視界の隅にいた彼の手がそっと私の視界を覆う。
 なんだか、そういう風に言わなければならない気がして「ええ、眠るの」と呟く。また、夢を見るだろう。たくさんの平行世界で、それでも、彼の隣で、またたくさんの夢を見るのだろう。無彩色の彼と私を彩る極彩色の夢が私の記憶になり、からだになり、存在になり、またリセットしては繰り返される。
 ああ、なんだか眠い。彼の体温はとても心地がいい。この名を捨て、新しい名でまた彼と出会い歴史を刻むのだ。私の色は定まらないけれど、できるなら、次は夜が明けた空のあの透き通るように美しい瑠璃色の私がほしい。彼の黒髪に似合う気がするから。夜がくる、私は眠りにつこう。おやすみなさい。


「この恋、何色。」の終わりと「Dear my xxx」「夜明」の始まりを此処に


2010.04.23~2010.12.31
2011.01.01~2012.03.16
2012.03.17~(夜明)


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