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□最悪な災厄の始まり
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こちらの設定)




兄貴が倒れたって話を聞いた時、俺は冗談だろって内心笑っていた。
だってあの兄貴だぞ?馬鹿みたいに強いテニス部の部長で、優男みたいにみえるけどああ見えて力はやばいくらい強い。酔っぱらって絡んできた巨漢を華麗に背負い投げしたのを見た事があるから間違いない。


――だから、こんな病室のベッドで死人みたいに寝てる兄貴は、兄貴じゃないんだ。
母さんと親父は医師に話を聞いていて、妹はまだ学校だ。だから病室にいるのは、俺と、俺も知ってる兄貴のテニス部仲間。兄貴が倒れた時に一緒にいたらしい。

「兄貴、いいかげん起きろよ。柳さん達来てるぞ」

反応はない。聞こえなかったのか。頼むからちょっとでも動いてくれよ。
これじゃ本当にまるで、死んでるみたいじゃないか。

「兄貴!起きろって!」
「京、落ち着け。眠っているだけだ」
「だけど!」

視線を迷わせる。みんなの顔色は同じように沈んでいた。多分、俺と同じ不安を抱えている。
…ただの過労かもしれないんだ。取り乱すにはまだ早いことに気づかされる。
葬式のような重たい雰囲気をごまかしたくて、口を開いた。


「あー…兄貴のくせに、ぶっ倒れるとか似合わねーよ。これ兄貴が仕掛けた壮大などっきりじゃねーの?」
「かもしれないな」
「でしょ?『フフ、驚いた?』とかって言って起き上がりそうですよね」
「……む」

む、って真田さん、それ驚いてんの?渋いよ。
切原がぐいと前に乗り出た。

「京くん今の言い方マジ似てた!声まで似てた!」
「もう一回言ってみろい」
「あー、んんっ。…『へえ、俺に指図するなんていい身分だね』」
「じゃあ次は俺の事誉めて!」
「赤也は叱られてばかりじゃからのう」
「成る程、幸村君に誉められたいんですね」
「余計ッスよ!仁王先輩に柳生先輩!」
「『赤也、うるさい』」
「ひい、スミマセンした部長!って京君だし!」
「…興味深いデータだな」

活気づいた雰囲気に、口の端が上がる。この活気は俺が作り出したんだ。柳さんが乗ってきてくれたお陰もあるけど。
まさかこんな場面で兄弟であることが役に立つとは思わなかった。今まで無駄に兄貴に間違えられてコクられた甲斐があったってもんだ。
これなら、いつ兄貴が起きたって大丈夫だ。いつもの立海テニス部だろう。


「『たるんど――』」
「……随分と楽しそうだね、京?」

…だからって、何も今起きなくたっていいじゃんな。
ぴしりと石化した俺を除いて、みんながわっと前に出る。

「幸村!」
「部長!大丈夫ッスか!?」

継ぎ早に掛けられる部長コールに兄貴は見慣れた笑みを見せる。

「心配かけたね。大丈夫だよ。」
「だが恐らく、大事をとって検査入院となるだろう。明日の試合は出られないと考えた方がいい」

へえ、試合があったのか。
なんて軽く考える俺とは正反対に、皆にとっては大問題だったらしい。上げてから落とされるとはこういうことか、空気が再び重くなる。えええ、そこは「部長のぶんまで頑張るぜ!」パターンじゃねえの?


「心配はないよ、皆」

病室に頼もしく響いた兄貴の声。見れば、兄貴はに〜っこり笑っていた。非常にキレイなこの笑顔。
しかし騙されてはいけない。兄貴がこの笑顔を見せるとき、誰かしらがとんでもない犠牲になる事を弟である俺は知っている。
とは言っても、今回は俺にはまるで関係のないテニス部の問題だ。
誰かさんドンマイ、頑張れよ。と無責任に心の中で呟く。

「精市、まさか」
「察しが良いね、柳。
そう。そこに丁度よく身代わりがいるだろ?…なあ、京?」
「……は?」


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