neta

□Rosy life(ギャリー)
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芸術的なのは判る。作品はそれぞれ繊細だし、制作過程がまるで見当のつかないオブジェはきっと高度な技術を用いているのだろう。そういった物事に興味をそそられないわけではないし、それは作者の作品が魅力的であるということだろう。
けれど同時に「気味が悪い」という感情が心に貼り付く。心を不安定にさせる色づかい、バランス、モチーフ、作品名。

なんでこの展覧会に来てしまったんだか。
芸術に精通する友人の頼みを断りきれなかった自分が憎い。作品を睨みつけながら足早に出口を目指す。せっかく高い入場料を払ったんだ。目を通すくらいはしなければ負けた気がする。なんて無駄な対抗心を燃やしながら歩き続ける。私はガキか。

――それにしても、さっきから人がいなさすぎる。うすら暗く、人ッ子ひとりの気配もない。このゲルテナという人物、どれほどマイナーなのか。
しばらく進んだところで、ひときわ巨大な絵に遭遇した。悔しいが、圧倒的される迫力。繊細で、綺麗。
作品の紹介プレートに近づこうと一歩踏み出したところで、心臓を突き刺すような鋭い痛みに襲われた。堪らず腰を折ると、自分の足がバラを踏み潰しているのが見えた。痛みが増していく。痛い、苦しい…!

「アンタ、その足をすぐに退けなさい!」
「っ…?」

複数の足音が、痛みに支配された脳内に割り込む。足を……?
言われるがままバラから足をどけるとやや楽になった。が、苦痛の残滓に膝をついて咳き込む。

「間に合ったわね…良かった」
「なに…が……」
「話は後。とりあえず水の入った花瓶を探さないと」

男性は床に落ちたバラを両手でそっと掬いあげて、わたしの掌に乗せた。

「それはアンタの命みたいなものよ。絶対に散らせちゃダメ」
「いのち……これが…?」
「動ける?」

小さな女の子達も心配そうに私を覗きこむ。心臓の痛みは収まらないし、正直身体を起こしているのも辛い。
力なく首を左右に振ると男性は決心したように言った。

「しょうがないわね。それ、しっかり持ってなさい」

男性がわたしの脇腹を掴んで、膝に腕を差し込む。あ、と思った時には浮遊感が全身を襲った。

「――!」
「しばらくは我慢してちょうだい。少しの辛抱よ」
「は、い」

にこ、と近くで笑った顔立ちは整っていて。おねえ言葉でなければ完璧な彫像のようだと思ったが、おねえ言葉を使うからこそ人間味があるのかしら、なぞと芸術かぶれ哲学かぶれな考えが頭に浮かんだ。




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