neta
□未来を見据える(物語二週目、男体化夢主)
1ページ/1ページ
「鳴上君、花村君!」
聞きなれたボーイソプラノに呼び止められ振り返ると、後輩である自分よりも校則に則って制服を着こなした“先輩”がこちらに向かって走ってくるところだった。
「これからジュネス?」
「ああ」
「一緒に行ってもいいかな」
「モチロンッスよ」
「さんきゅー。花村君、敬語はいいって言ったのに」
並んだ“先輩”は俺達を上目に苦笑いする。身長差は10センチと言ったところか。細い体格も相俟って、華奢な印象を与える。
また彼が扱う敬称は後輩に対するものと言うよりも、女性が男性に対して君付けしていると表現した方が自然だ。それほどまでに中性的。見た目も、中身も。それは恐らく、彼の元来の性格なのだろう。そう推測する。
いくら中性的と言っても、見れば男と判る程度だが。
「鳴上君はもう馴れたよな、八十神」
「ああ。おかげさまで」
「おれは何もしてないよ。花村君とち…里中さんのおかげだろ。そういや今日は一緒じゃないの?」
「里中なら天城…っと、里中の友達と帰ったッスよ」
「…そか」
「先輩見たことないッスか?天城旅館とこの――」
「赤い上着の、美人さん」
ぽつりと溢した言葉は花村に向けたものというより、どこか無意識に出てしまったもののようだった。
そこに疑問が浮かぶが、その答えは掴めない。会話は続けられている。
「そうそう、それッス」
「知ってるよ。有名だし……でも花村君は小西さん一筋じゃなかったのか?」
「げっ、なんで知ってるんスか」
「ふは、女の情報網なめちゃいけないよ?」
「やだなーセンパイ、イヤに女子と仲良いんスから」
「そうかもね。それより、ジュネスに何しに行くんだ?」
花村は気付いていないのか気にしていないのか、やや無理やりに話を逸らして先輩は話を続ける。
楽しそうな会話。その筈だが、彼はどこか遠い場所を見ているような、俺達ではない何かを見ているような気がしていた。