neta

□花よ咲け(TOV)
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エステル→ユーリ→夢主 な話。

はたから見ていてとてももどかしい。

リタはキッパリと言い放つと、腕を組んでちらと視線を前方へ走らせた。その先にあるのは、少し離れたところを歩く、二つの背中。

「ユーリとトワ…そうですね」

下町育ちの幼なじみ。
聞くところによると、もう、何年一緒にいるか忘れてしまったぐらい長いこと一緒にいるらしい。ひとつ屋根の下で。
けれどそんな二人は恋愛関係ではない。
ユーリが彼女のことを好いているというのは瞭然なのだけれど、トワはユーリを意識していないようで。
リタは、それがもどかしいのだろう。

「違う。あんたのことよ、エステル」
「え……わたし?」

てっきり、あの二人同士の話題だと思っていたのに。突然自分の名前が出たことに、どきりと跳ねた心臓は、続けて大きく脈を打ちはじめる。

「わ、わたしはそんな、なにも」
「あんたねえ、」

呆れ顔になったリタは、すぐに強気の顔になった。

「分からないとでも思った?とっくにみんな気がついてるわよ。あの疎いトワやガキんちょにだって、何かあるって感づいてるわ」
「え…」
「あたしがもどかしいって言ったのはそういうこと。そういう事はホント、トワ並に鈍いわね」

言い切って大きくため息をついたリタをぱちくりしながら見つめる。うそ、そんな……気付いている?みんなが…。

「本当ね」
「きゃ!」

呆然としていると後ろから声がかけられて。振り返って見ればそこには笑みを浮かべたジュディスがいた。リタが「驚かせないで!」とつのったのだけれど、それをあしらって言葉を続ける。

「彼も気付いてると思うけれど。面倒事が嫌いな彼のことだもの、あえて放っておいているのかもしれないわ」
「ちょっとアンタ!その言い方はないでしょ!」

リタが噛み付くが、ジュディスはこれもさらりと流した。
…面倒事。その言葉が重くのしかかる。やはり、この気持ちは彼にとっては迷惑なだけなのだろうか?
身分の差、トワという存在、貴族嫌いのユーリ、エトセトラエトセトラ。不安要素はいくらでもある。
そうだ、どんなにわたしがアピールをしても、ユーリはするりするりとはぐらかしてしまう。
トワが羨ましい。
妬む気持ちが少しも無いと言えば嘘になる。でもトワは、みんなと同じ大切な仲間、ううん、友達だから。いつまでも仲良くしていたい。嫌いになんて、なれない。
何も言えずにうなだれる。

「このまま膠着状態の関係で良いっていうのなら、私たちは何も言わないわ。
でも、どうしたいかは貴女次第。後悔しないよう考える事ね」
「あんたっ、あたしの言おうとしてたことを…!」
「あら、優しいのね」
「ち、ちがうわよっ!あたしはただ、その、戦闘に集中してもらわないと困るってだけで!!
……だから、もしあんたがアイツとどうにかなりたいっていうなら応援してあげないこともない…わよ」
「ジュディス…リタ…」

ありがとうございます、そう言おうとした言葉は言葉にならなくて。口を開いたら言葉に出来ない気がして。視界が潤む。隣でリタがぎょっとしたのがわかる。
悲しいのではなくて、嬉しい。
悲しいのではなくて、切ない。

「ありがとう、ございます。
わたし…わたし、…がんばってみます」

滲んだ世界の中で、二人が優しく笑った気配がした。






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