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□省エネ少年とものぐさ少女(折木)
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午前授業の明るい陽が差す教室。生徒たちは軽い足取りでざわめきあって帰っていった。
たっぷりと残された午後の時間に遊びにゆくのだろう。
窓際の席で晴れ渡る空を見上げながら少女はぼんやり推察した。


「佐崎」

「え。なあに」

「これ、お前のだろ」

「あー…」


彼の手には一冊の文庫本。少女はそれが自分のものだと判断するのに数秒かけてから口を開いた。


「ありがとう。探してたんだ。」

「椅子に座って空を見ながらか?」

「物を捜すのって、労力要るじゃん。と思ったら、座ってた。」

「…なんだそれ。しかもそこ、俺の席だし。」

「へえ、良い席だね。外がよく見える。おまけに寝ても、本読んでても、バレなさそう。」

「それは確かにそうだが…。
つかお前、このクラスじゃないだろ、なんでここにいるんだ。」

「あれ。うそ」

「嘘じゃない。お前、C組だろ。」


言外に、なんで毎日通ってるのに間違えるんだよ、と言うような口振りだった。彼女は気にした様子もなく口を開く。


「まあ良かった。見つかって。助かったよ。ありがとう。」

淡々と、単語ごとに区切るようなしゃべり方で少女は安心と謝意を述べた。口調は単調で変化が乏しく、感情はさほど籠められているように思えない。
だがそうした体面を気にしない彼女の態度は万人共通であり、自分を繕わない彼女に少年は好意を持っていた。また、読書が好きで面倒事を厭う性格は自分と同属だとして連帯感も抱いている。
実際に、忘れ物を直接届けるという自分にとっては面倒な部類に入る仕事をする程度には好意を持っているのだ、と彼は自分を分析する。
彼女が文庫本を受け取り、少年を見上げた。

「でも、よく知ってたね。これが私のだって。クラスも違うのに」

そこで少年は初めて気がつく。自分と彼女は今まで接点がなかったのに、自分は彼女の名前を知っていること、彼女のクラスを知っていたこと、彼女の持つ本を把握していたこと、彼女の趣味を把握していたこと。
知らず知らず、彼女を追っていたことに。


(もしかして、俺は)


仲良くしたいのか。
…それとも、まさかとは思うがもっと深い関係になりたいのか?
彼女はといえば、気だるそうな動作で本のあらすじをなぞっていた。




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