Neta

□槙島さんと知り合う
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ページを捲りながら、活字を追う。この時代には絶滅危惧種となってしまった紙の本。
私にはどうも電子書籍が合わなかった。無機質で暖かみのないパネルでは、文に入り込めない。そんな気がして。縢君に言ったら屁理屈だとか偏見だとか先入観だとか言われてしまった。同意してくれたのは征陸さんだけ。
文字を追いながら頼んだアイスミルクティーを啜る。黙々と集中していると、爽やかな声がして現実に引き戻された。顔を上げる。

「隣、良い?」
「は……どうぞ」
「ありがとう」

白銀の髪が靡いた。芸能人も真っ青になって逃げ出しそうな美貌を持つ青年。
なんで私のテーブルに、と思ったが意味などないと察する。

「それは、紙の本?」
「え?はい…。やっぱり珍しいですか。」
「そうだね。とても珍しいよ。同胞に会う事は」

彼が翳した一冊の“本”。
彼もまた、紙媒体を持っていたことに驚く。そして目を奪った英語のフォント。

「…ハム…レット?」
「そっちは、東野圭吾か。一時期世間を席巻した人物」
「ご存知ですか」
「読んだ事はないけどね。」
「そうですか。でも、ハムレットのように普遍的な評価がされている著者ではないので、名前だけでも知ってる人がいてびっくりです」
「普遍的、か。君はシェイクスピアを読んだ事が?」
「ない、です」
「これを貸そう」
「え!?いやそんな、こんな貴重なもの!」
「大丈夫。ちゃんと返してもらうさ。――また、会うだろうからね。
シェイクスピアを読んだ時君がどんな感想を持ち、考えたか…果たして本当に普遍的だったか。
楽しみにしているよ」












コールドスリープでサイコパスの時代に目覚めた、百年前の人間という死に設定子ちゃん

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