Neta

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江ちゃんに「みんなの飛び込みをカメラに録画したので、一緒にフォームチェックしませんか」と誘われて部室に向かう。
パイプ椅子を二脚並べて、カメラ備え付けの小さなディスプレイを江ちゃんと二人で覗き込む。
そうして、最初に映ったのは遙君だった。すらりとした長身が飛び込み台に立ち、いつもの無表情のままゴーグルの位置を調整する。
そうして、セットアップのあと飛び込んだ。
その一連の動きは無駄がなく、しなやかで。必要最小限に抑えられた飛沫は、水に飛び込む遙君を歓迎するクラッカーのようだった。

「……すごく綺麗」
「え?」
「あ。いや、変な意味じゃなくてね。
私は水泳に関して専門的ことは素人だけど、遙君の飛び込むところとか泳ぐところって、すごく洗練されてて…素人ながら、綺麗だな。格好いいなって 思ってさ」

思ったことを口にしてから、自分が恥ずかしいことを口走ったことに気づく。
……江ちゃんの、目をまんまるにして驚いた表情がそこにあったから。

「久瀬先輩、遙先輩と何かあると思ったら…もしかして」
「違うよ!?誤解しないでね、惚れてるとしたら遙君じゃなくて、遙君の泳ぐところに、だから!」
「本当に…?」
「本 当 に 。」
「そっかぁ…」
「つまんないのー」

ちょっとだけ気落ちした様子の江ちゃん。しかし落胆の声音は江ちゃんだけではなかった。
第三者は私と江ちゃんの背後。顔と顔の隙間からひょっこりと顔を出したのは、渚君だった。
江ちゃんが可愛らしい悲鳴を上げて離れるのに対し、私は内心ビビりつつ少し驚いた表情になるだけ。これが女子力の差。
しかもとっさによぎったのが「話を聞いてたのが遙君じゃなくてよかった」という打算的な考えなのだからことさら可愛げがない。
渚君に、「今後心臓に悪いことはしないように」とたしなめているとドアの向こうで遅れてやってきた真琴君の声がした。

「あれ、ハル?どうしたんだ部室にも入らないで…って、顔真っ赤!?」

……聞かれてた。

「うつだしのう」
「せんぱい死んじゃだめー!」









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